令和8年(2026年)6月1日に本体が施行された診療報酬改定では、要件をすぐに満たせない医療機関のために多くの「経過措置」が設けられています。特に集中するのが令和8年9月30日という期限です。本記事は、9月30日で終了する主な経過措置、令和9年3月31日までの在宅・救急関連、薬価の経過措置を一覧で整理し、あわせて「届出が間に合わなかった」「要件を満たせそうにない」場合に何ができるのか、9月までに何を逆算で進めるべきかを、医療機関の事務・施設基準担当者向けにまとめた実務ガイドです。

📋 改定2026の全体像はこちら:施行スケジュール・届出が必要な施設基準・全カテゴリの改定一覧は「診療報酬改定2026 完全ガイド」で確認できます。施行直前・直後にやることは「6月1日施行 直前チェックリスト(記事64)」をご覧ください。

このページの要点:

  • 最大の山は9月30日:療養病棟入院料2の医療区分割合、回復期リハ入院料2・4の実績指数、訪問看護医療情報連携加算のウェブサイト掲載などが令和8年9月30日で経過措置終了。
  • 経過措置=届出不要ではない:多くの加算は、経過措置期間中でも算定する月から届出が必要です。
  • 間に合わなくても次月から算定可:各月末日までに要件審査・受理が終われば翌月1日から算定できます。さかのぼっての算定(遡及)は原則できません。

経過措置の全体スケジュール(俯瞰図)

令和7年5月31日(終了済み)|掲示事項のウェブサイト掲載(一般原則)の経過措置
令和8年6月1日|診療報酬本体の施行
令和8年9月30日【最重要の山】|療養病棟入院料2の医療区分割合/回復期リハ入院料2・4の実績指数/訪問看護医療情報連携加算のウェブサイト掲載 など
令和9年3月31日|在宅・救急関連の一部要件/薬価(削除品目等)
令和9年5月31日 等|機器・体制に係る一部加算(品目ごとに長めの猶予)

§1 そもそも「経過措置」とは

経過措置とは、改定で新たに求められた要件をすぐに満たせない医療機関のために、一定期間は従前の基準で算定してよい、または要件充足を猶予する仕組みです。「制度に対応するための準備期間」と考えるとわかりやすいでしょう。

ただし、ここで2つの大きな誤解に注意が必要です。

⚠️ 誤解1:「経過措置があるから届出は後回しでよい」
これは誤りです。多くの加算は、経過措置期間中であってもその加算を算定する月から届出が必要です。経過措置は「要件充足の猶予」であって「届出の免除」ではありません。

⚠️ 誤解2:「期限までに届出すればさかのぼって算定できる」
これも誤りです。届出にもとづく算定は、原則として受理された翌月1日から。各月の末日までに要件審査・受理を終えた場合に翌月1日から算定でき、過去にさかのぼっての算定(遡及算定)は原則できません。

§2【最重要】令和8年9月30日で終了する主な経過措置

令和8年度改定では、多くの経過措置が令和8年9月30日に集中しています。期限後も算定を続けるには、それまでに要件を整え、必要な届出を済ませておく必要があります。

対象 経過措置の内容 期限までにやること
療養病棟入院基本料2 医療区分2・3の患者割合の基準が引き上げ(5割→6割)。改定時点で届出済みの病棟は、令和8年9月30日まで従前の基準を満たすものとみなす 9月30日までに医療区分6割以上の体制を整える(達成できなければ区分の見直し)
回復期リハビリテーション病棟入院料2・4 リハビリテーション実績指数に係る施設基準を、令和8年9月30日まで満たすものとみなす 9月30日までに実績指数の基準を満たし、実績を公表する
訪問看護医療情報連携加算 所定事項のウェブサイト掲載について、令和8年9月30日まで経過措置 9月30日までに所定事項を自院ウェブサイトに掲載する
本体改定の一部加算(施設基準の見直し分) 改定で要件が変わった加算の一部は、令和8年9月30日まで従前要件で算定可 9月30日までに新要件を満たし届出(加算ごとに通知で確認)

📌 ウェブサイト掲載まわりの経過措置:掲示事項のウェブサイト掲載(一般原則)の経過措置は、令和6年度改定分が令和7年5月31日で終了済みです。令和8年度で新たに公表が要件化された項目(回復期リハの実績、訪問看護医療情報連携加算など)が9月30日の対象です。掲載要件の詳細は「施設基準のウェブサイト掲載義務 完全ガイド(記事68)」で解説しています。

§3 令和9年3月31日まで/その他の期限

9月30日以外にも、より長い経過措置や薬価関連の別建ての期限があります。

区分 経過措置の期限 注意点
在宅・救急搬送関連の一部要件 令和9年3月31日まで 地域要件・搬送件数要件などで個別に設定(保医発0305第7号)
薬価(削除品目・既収載品の取扱い等) 令和9年3月末まで 薬価は本体とは別建ての経過措置。薬価改定2026ガイド参照
一部の機器・体制に係る加算 令和9年5月31日まで等 内視鏡手術用支援機器加算など、品目・体制ごとに長めの猶予が設定される場合がある

⚠️ 期限は加算ごとに異なります:同じ「経過措置」でも、対象・内容・期限は加算ごとにばらばらです。上表は代表例です。自院が算定する(または算定予定の)加算については、必ず令和8年3月5日付の保医発0305第7号・第8号、および疑義解釈(その1〜その7)で個別に確認してください。疑義解釈の要点は「疑義解釈その1〜その7まとめ(記事66)」で整理しています。

§4 届出が間に合わなかった場合の対応

「5月末の受理に間に合わなかった」「6月から算定できなかった」というケースでも、できることはあります。

基本ルール(保医発0305第7号):

  • 各月の末日までに要件審査を終え届出を受理した場合は、翌月1日から算定できる。
  • 例:6月末日までに受理 → 7月1日から算定開始。7月末日までに受理 → 8月1日から算定開始。
  • 過去にさかのぼっての算定(遡及)は原則不可。間に合わなかった月の分は算定できない。

ケース別の対応

  • 書類の不備で受理されなかった:不備を補正し、翌月末の受理を目指す。様式番号・添付書類は厚労省「施設基準届出チェックリスト(令和8年5月29日訂正版)」で再確認。
  • 要件(人員・実績など)が現時点で足りない:経過措置の対象なら期限内に整える。対象外なら、要件を満たした月の翌月から算定する計画に切り替える。
  • 経過措置対象だが届出を失念していた:経過措置期間中でも算定する月から届出が必要なため、速やかに届出。届出前の期間はさかのぼれない。

📄 届出には診療報酬改定届出書(Excel・書式01)を無料でご利用いただけます。各加算固有の様式は厚生労働省および各地方厚生(支)局のページから取得してください。

§5 要件を満たせそうにない場合の選択肢

経過措置の期限までに要件達成が難しいと見込まれる場合は、早めに方針を決めることで返還リスクや収益への影響を抑えられます。

  1. 下位区分・別の届出に切り替える:たとえば療養病棟入院料2で医療区分6割が難しい場合、入院料区分の見直しを検討。回復期リハ入院料も実績指数に応じた区分への変更を検討。
  2. 期限到来前に算定を取り下げる:要件未充足のまま算定を続けると返還対象になります。達成困難が確実なら、期限前に「辞退届」等で算定を取り下げる判断も必要です。
  3. 達成計画を前倒しする:人員配置・実績の積み上げ・公表体制の整備など、ボトルネックを特定して9月30日から逆算したスケジュールを組む。

⚠️ 「気づいたら未充足のまま算定していた」が最も危険:経過措置の期限を過ぎたのに従前のまま算定を続けると、その期間の算定分が自主返還の対象になり得ます。期限の3〜4週間前には達成見込みを判定し、難しければ区分変更・取り下げの手続きに入りましょう。

§6 9月30日から逆算するカレンダー(目安)

〜令和8年7月
経過措置対象を棚卸し・数値で達成状況を把握
令和8年8月
達成見込みを判定。不足分に着手/区分変更も検討
令和8年9月上旬
新要件で届出提出(9月末受理→10/1算定継続)
令和8年9月30日
経過措置終了。以後は新要件+公表が前提
時期 やること
〜令和8年7月 自院の経過措置対象を棚卸し(療養病棟・回復期リハ・訪問看護・各加算)。達成状況を数値で把握
令和8年8月 達成見込みを判定。不足分の手当て(人員・実績・公表)に着手。難しい項目は区分変更・取り下げを検討開始
令和8年9月上旬 新要件での届出書類を準備。9月末受理に間に合うよう提出(10月1日から新要件で算定継続)
令和8年9月30日 経過措置終了。以後は新要件を満たし、必要な公表を行っていることが算定の前提

受理タイミングの考え方:9月30日まで経過措置(みなし)が続く項目は、10月1日以降も算定を続けるなら9月末日までに新要件での受理を終えるのが基本線です。書類の混雑・補正のやり取りを見込み、9月前半には提出できるよう準備しましょう。

§7 よくある質問(FAQ)

Q. 経過措置がある加算は、届出をしなくても9月まで算定できますか?
A. 多くの加算は、経過措置期間中であっても算定する月から届出が必要です。経過措置は要件充足の猶予であり、届出の免除ではありません。加算ごとに通知で確認してください。

Q. 5月末の受理に間に合いませんでした。6月分はあきらめるしかないですか?
A. 6月1日からの算定はできませんが、6月末日までに要件審査・受理が完了すれば7月1日から算定できます。過去にさかのぼっての算定は原則できないため、できるだけ早い月での受理を目指してください。

Q. 9月30日までに要件を満たせそうにありません。どうすればよいですか?
A. 達成が困難と見込まれる場合は、下位区分や別の届出への切り替え、または算定の取り下げ(辞退届等)を期限前に検討してください。未充足のまま算定を続けると、その期間の算定分が返還対象になり得ます。

Q. 薬価の経過措置も9月30日までですか?
A. いいえ。薬価は本体改定とは別建てで、削除品目等の取扱いは令和9年3月末までなど、別の期限が設定されています。詳細は薬価改定の通知および薬価改定2026ガイドをご確認ください。

§8 まとめ

令和8年度改定の経過措置対応は、次の順序で進めるのが現実的です。

  1. 棚卸し:自院が経過措置に乗っている項目を一覧化し、達成状況を数値で把握する。
  2. 判定:8月までに達成見込みを判定。難しい項目は早めに区分変更・取り下げを検討。
  3. 届出:10月以降も算定するなら、9月末日までに新要件での受理を終える。
  4. 遡及不可を前提に:「間に合えば翌月から」を念頭に、できるだけ早い月での受理を目指す。

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参考文献・一次情報

  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
  • 令和8年度診療報酬改定の概要「16. 経過措置」(厚生労働省保険局医療課)
  • 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日 保医発0305第7号)
  • 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日 保医発0305第8号)
  • 基本診療料の施設基準等(令和8年厚生労働省告示第70号)/特掲診療料の施設基準等(告示第71号)
  • 施設基準届出チェックリスト(令和8年5月29日 一部訂正版)
  • 疑義解釈資料の送付について(その1〜その7/令和8年3月23日〜5月29日)

※ 本記事は令和8年6月1日施行時点の情報にもとづく実務解説です。経過措置の対象・内容・期限は加算ごとに異なります。算定にあたっては、必ず最新の告示・通知・疑義解釈の原文をご確認のうえ、判断に迷う場合は管轄の地方厚生(支)局へご確認ください。