糖尿病治療薬には作用の異なる9つの系統があり、なかでもGLP-1受容体作動薬・SGLT-2阻害薬・GIP/GLP-1受容体作動薬は「体重を減らす作用」で注目を集めています。 本記事では各系統の作用機序と違いをわかりやすく整理し、肥満症治療薬(ウゴービ・ゼップバウンド等)が糖尿病薬とは適応が別であること、混同されやすい「マンジャロ」と「ゼップバウンド」が同じ成分であることまでを解説します。医療従事者の基礎整理にも、一般の方の「やせ薬」への素朴な疑問にも対応する全体マップです。

📚 本記事は特集「糖尿病・肥満症治療薬ガイド」の一部です。全体像・施設要件・危険性・Q&Aもまとめてご覧いただけます。

本記事の立場:本記事は薬剤の全体像を中立的に解説する情報提供であり、特定商品の使用を推奨するものではありません。 効能・効果や用法は各薬剤の添付文書に基づき、情報は2026年6月時点のものです。実際の薬剤選択・処方は必ず医師・薬剤師にご相談ください。 自己判断での使用や、医師の処方によらない個人輸入は行わないでください(危険性は本特集の別記事で解説します)。

§1. 糖尿病治療薬の全体像 ― 9系統マップ

糖尿病の薬は「血糖を下げる」という目的は同じでも、どこに・どう効くかがまったく異なります。 まずは主要な9系統(+イメグリミン・インスリン)を、作用部位・体重への影響・低血糖リスク・代表薬で俯瞰しましょう。

系統 作用機序(部位) 体重 低血糖 代表薬(一般名/商品名)
ビグアナイド 肝の糖新生抑制・筋のインスリン感受性↑ 中立 低い メトホルミン(メトグルコ)
SGLT-2阻害薬 腎で尿糖の再吸収を阻害→尿へ排泄 減少 低い ダパグリフロジン(フォシーガ)ほか
GLP-1受容体作動薬 膵でインスリン↑・胃排出遅延・食欲抑制 減少 低い セマグルチド(オゼンピック/リベルサス)ほか
GIP/GLP-1受容体作動薬 GIP+GLP-1の2受容体に同時作用 減少(大) 低い チルゼパチド(マンジャロ)
DPP-4阻害薬 インクレチンの分解を抑制 中立 低い シタグリプチン(ジャヌビア)
スルホニル尿素(SU)薬 膵を刺激しインスリン分泌↑ 増加 高い グリメピリド(アマリール)
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド) 食直前に速やかにインスリン↑ 中立〜微増 中〜高 レパグリニド(シュアポスト)
α-グルコシダーゼ阻害薬 小腸で糖の分解・吸収を遅らせる 中立 低い ボグリボース(ベイスン)
チアゾリジン 脂肪・筋のインスリン感受性↑ 増加(浮腫) 低い ピオグリタゾン(アクトス)
(補)イメグリミン ミトコンドリアに作用 中立 低い イメグリミン(ツイミーグ)
(補)インスリン製剤 体外から直接インスリンを補充 増加 高い 各種インスリン(ランタス等)

ここがポイント: 「やせる方向」に働くのはSGLT-2阻害薬・GLP-1・GIP/GLP-1、逆に「体重が増えやすい」のはSU薬・チアゾリジン・インスリンです。 低血糖を起こしやすいのはSU薬・グリニド・インスリンで、その他の系統は血糖が高いときだけ働くため単独では低血糖を起こしにくいのが特徴です。

§2. GLP-1受容体作動薬とは ― なぜ「やせる」のか

GLP-1(ジーエルピーワン)は、食事をとると小腸から分泌されるインクレチンというホルモンです。 GLP-1受容体作動薬は、このGLP-1と同じ働きを薬で再現します。やせる仕組みは大きく次の4点です。

  • 血糖依存性にインスリン分泌を促進(血糖が高いときだけ働く)
  • グルカゴン分泌を抑制(肝臓から糖が出るのを抑える)
  • 胃の内容排出を遅らせる(食後の血糖上昇がゆるやかになり、満腹感が続く)
  • 脳の食欲中枢に作用して食欲を抑える(摂取カロリーが減る)

「やせる」核心: 胃排出の遅延と食欲抑制によって自然に食べる量が減ることが、体重減少の主な理由です。 また血糖が高いときだけインスリンを出す「血糖依存性」のため、単独では低血糖を起こしにくいのも大きな特徴です。

代表的な薬剤と用法(いずれも効能・効果は「2型糖尿病」)

商品名(一般名) 剤形 用法の目安
オゼンピック(セマグルチド) 注射 週1回
リベルサス(セマグルチド) 経口錠 1日1回。空腹時にコップ半分(120mL)以下の水で服用し、服用後30分は飲食・他剤を控えるという特別な飲み方が必要
トルリシティ(デュラグルチド) 注射(キット) 週1回
ビクトーザ(リラグルチド) 注射 1日1回

主な副作用は吐き気・嘔吐・下痢などの消化器症状です。多くは投与初期に現れ、少量から開始することで軽減を図ります。

§3. GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)とは

チルゼパチドは、GIPとGLP-1という2つのインクレチン受容体に同時に作用する、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。 GLP-1単独の薬よりも、血糖を下げる効果・体重を減らす効果がともに強い傾向が臨床試験で示されています。週1回の皮下注射で、用量は2.5mgから15mgまで段階的に増やします。

重要 ― 商品名で適応が分かれる: チルゼパチドは同じ成分でありながら、「マンジャロ」=2型糖尿病用、「ゼップバウンド」=肥満症用として商品名で適応が分けられています(詳しくは§6)。 マンジャロは2023年4月18日に発売されました。

2型糖尿病を対象としたSURPASS-2試験では、チルゼパチド15mg群の平均体重減少が約12.4kgと、比較対象のセマグルチド群(約6.2kg)を上回りました。 体重減少の程度は用量依存的に大きくなる傾向があります(具体的な減少率は§6・臨床試験の項を参照)。

§4. SGLT-2阻害薬とは ― 尿から糖を捨てて血糖を下げる

SGLT-2阻害薬は、腎臓の近位尿細管にある「SGLT-2」という糖の再吸収口を選択的にブロックします。 その結果、いったん濾過された糖が血液に戻らず尿として排泄され、血糖値が下がります。インスリンの量に関係なく働くため、単独では低血糖を起こしにくく、尿に糖(=カロリー)を捨てることで体重もやや減少します。

代表薬と適応 ― 心不全・腎臓病への広がりは製剤ごとに違う

一般名(商品名) 効能・効果(添付文書)
ダパグリフロジン(フォシーガ) 2型糖尿病・1型糖尿病・慢性心不全・慢性腎臓病
エンパグリフロジン(ジャディアンス) 2型糖尿病・慢性心不全・慢性腎臓病
カナグリフロジン(カナグル) 2型糖尿病・2型糖尿病を合併する慢性腎臓病
イプラグリフロジン(スーグラ) 2型糖尿病・1型糖尿病
トホグリフロジン(デベルザ/アプルウェイ) 2型糖尿病
ルセオグリフロジン(ルセフィ) 2型糖尿病

適応の違いに注意: 心不全と慢性腎臓病の両方の適応を持つのはフォシーガ・ジャディアンスの2剤です。カナグルの腎臓病適応は「糖尿病を合併する」場合に限られます。同じSGLT-2阻害薬でも適応範囲が異なる点に注意してください。

主な副作用・注意点: 尿路・性器感染(まれに重篤化)、脱水(特に高齢者・利尿薬併用時)、そして血糖が高くなくても起こりうる正常血糖ケトアシドーシスに注意が必要です。 発熱・下痢・食事がとれないとき(シックデイ)は脱水やケトアシドーシスを起こしやすいため、休薬の判断を含め主治医の指示に従ってください。

§5. GLP-1とSGLT-2は何が違う?

どちらも「体重が減る糖尿病薬」として注目されますが、減らし方の仕組みがまったく違います。 GLP-1は「食欲を抑えて食べる量を減らす」、SGLT-2は「尿から糖を捨てる」アプローチです。

項目 GLP-1受容体作動薬 SGLT-2阻害薬
作用の場 膵・消化管・脳(食欲中枢) 腎臓(近位尿細管)
血糖を下げる仕組み 血糖依存性にインスリン↑・グルカゴン↓ 尿へ糖を排泄(インスリンに依存しない)
体重が減る仕組み 食欲抑制・胃排出遅延 尿糖によるカロリー喪失
心臓・腎臓の保護 大血管イベント抑制のデータあり 心不全・慢性腎臓病の保護(製剤ごとに適応)
剤形 週1回/1日1回の注射・経口(リベルサス) 経口(1日1回)
低血糖リスク 低い(SU薬併用時は注意) 低い(SU・インスリン併用時は注意)
主な副作用 消化器症状(悪心・嘔吐・下痢) 尿路・性器感染、脱水、ケトアシドーシス

どちらが優れているかは一概に言えず、患者さんの血糖・体重・心臓や腎臓の状態、副作用リスクを総合して主治医が選択します。

§6. 肥満症治療薬は「糖尿病薬」とは別 ― 混同を解消する

近年「やせ薬」として話題になる薬の多くは、もともと2型糖尿病の治療薬です。 一方で、肥満症そのものを適応として承認された薬も登場しています。両者は適応(保険で使える病気)が異なります。

日本で「肥満症」に承認された主な薬

商品名(成分) 効能・効果と位置づけ
ウゴービ(セマグルチド) 肥満症で初めて保険適用となった注射薬(2024年2月22日発売)。高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを有し、食事・運動療法で効果不十分、かつ「BMI27以上+健康障害2つ以上」または「BMI35以上」が対象。
ゼップバウンド(チルゼパチド) GIP/GLP-1の肥満症治療薬(2025年4月11日発売)。適応条件はウゴービと同様。さらに2026年4月には中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(BMI27以上)への適応拡大も承認された。
サノレックス(マジンドール) 高度肥満症に用いる中枢性食欲抑制薬。使用期間に制限がある。
アライ(オルリスタット) 腹囲が大きい人向けの市販薬(OTC・要薬剤師の確認)。脂肪の吸収を抑える。

サクセンダ(リラグルチド)は日本では未承認: 海外で肥満症に使われるサクセンダは、日本では承認されていません。国内では自由診療や個人輸入で扱われることがありますが、その場合は万一の健康被害が生じても国の医薬品副作用被害救済制度の対象外です。なお同じ成分のビクトーザは2型糖尿病では承認されていますが、肥満症には使えません。

「マンジャロ」と「ゼップバウンド」は同じ薬?

はい、有効成分はどちらも同じチルゼパチドです。週1回の皮下注射で、用量の幅も同じです。違いは適応(使う目的)だけで、 マンジャロ=2型糖尿病用、ゼップバウンド=肥満症(および閉塞性睡眠時無呼吸症候群)用として商品名が分けられています。

肥満症とは ― BMIだけでは決まらない

日本肥満学会の基準では、BMI25以上を「肥満」、そのうち肥満に関連する健康障害があり医学的に減量が必要な状態を「肥満症」と定義します。 関連する健康障害には、耐糖能障害(2型糖尿病等)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞・一過性脳虚血発作、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患、肥満関連腎臓病の11種があります。

体重減少の効果(臨床試験データ)

肥満症治療薬の体重減少効果は臨床試験で次のように報告されています(あくまで試験条件下での平均値で、食事・運動療法と併用した結果です)。

  • セマグルチド2.4mg(ウゴービ相当):STEP 1試験・68週で約15%の体重減少
  • チルゼパチド15mg(ゼップバウンド相当):SURMOUNT-1試験・72週で約20〜22%の体重減少

「やせ薬」としての安易な使用は危険: 2型糖尿病でない人が美容・ダイエット目的でこれらを使うのは適応外使用にあたります。 これらの薬は肥満症の診断基準・施設要件のもとで使われるべきもので、十分な診察のない処方や個人輸入には重大なリスクがあります。詳しくは本特集の関連記事で解説します。

§7. まとめ ― 本特集の歩き方

  • 糖尿病薬は9系統。「やせる薬」=SGLT-2・GLP-1・GIP/GLP-1、「太りやすい薬」=SU・チアゾリジン・インスリン。
  • GLP-1は食欲抑制・胃排出遅延で、SGLT-2は尿糖排泄でやせる ― 仕組みが違う。
  • 肥満症治療薬(ウゴービ・ゼップバウンド)は糖尿病薬とは適応が別。マンジャロとゼップバウンドは同成分・別適応。
  • サクセンダは国内未承認。糖尿病でない人の「やせ薬」使用は適応外。

本特集では、この続きとして次のテーマを順次公開します。

関連記事:生活習慣病管理料Ⅰ・Ⅱの違いと実務/食事・栄養に関する加算ガイド

§8. よくある質問(FAQ)

Q. GLP-1とSGLT-2はどちらがよく効きますか?

A. 優劣は一概に言えません。作用の仕組み・適応・体重や心臓・腎臓への影響が異なるため、患者さんの状態に合わせて主治医が選びます。

Q. なぜGLP-1で体重が減るのですか?

A. 脳の食欲中枢に働いて食欲を抑え、胃の内容排出を遅らせて満腹感を持続させるためです。血糖が高いときだけ働くので、単独では低血糖を起こしにくいのも特徴です。

Q. SGLT-2阻害薬で尿に糖が出るのは体に悪くないのですか?

A. 尿に糖を出すのは薬の作用そのものです。ただし尿路・性器感染や脱水、ケトアシドーシスに注意が必要で、医師の管理のもとで使用します。

Q. マンジャロとゼップバウンドは同じ薬ですか?

A. 有効成分はどちらも同じチルゼパチドです。マンジャロは2型糖尿病用、ゼップバウンドは肥満症(および閉塞性睡眠時無呼吸症候群)用として、適応ごとに商品名が分かれています。

Q. 糖尿病ではないのですが、やせ薬として使えますか?

A. 2型糖尿病治療薬を美容・ダイエット目的で使うのは適応外使用です。肥満症治療薬にも診断基準・施設要件があります。自己判断や個人輸入は避け、必ず医療機関にご相談ください。

参考文献・出典

  • 各薬剤の電子添文(PMDA 医療用医薬品 添付文書情報):オゼンピック/リベルサス/トルリシティ/ビクトーザ/マンジャロ/ゼップバウンド/フォシーガ/ジャディアンス/カナグル/スーグラ/デベルザ/ルセフィ/ウゴービ ほか
  • 日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド」
  • 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン」(肥満・肥満症の定義、肥満に関連する11の健康障害)
  • 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン」セマグルチド(ウゴービ)/チルゼパチド(ゼップバウンド)
  • SURPASS-2試験・SURMOUNT-1試験・STEP 1試験 ほか各臨床試験の公表データ
  • ※本記事の情報は2026年6月時点。承認状況・適応・用法は改訂される場合があるため、最新の添付文書をご確認ください。