肥満症治療薬ウゴービ(セマグルチド)・ゼップバウンド(チルゼパチド)は、いずれも最適使用推進ガイドラインの対象品目です。保険診療で処方するには、患者要件・施設要件・体制要件をすべて満たし、レセプト摘要欄に所定事項を記載する必要があります。 本記事では、誰に・どの医療機関で処方できるのか、栄養指導や届出の実務、保険と自由診療の違いまでを、厚生労働省の通知に基づいて整理します。自院での処方可否を点検できる無料書式も提供予定です。

📚 本記事は特集「糖尿病・肥満症治療薬ガイド」の一部です。全体像・施設要件・危険性・Q&Aもまとめてご覧いただけます。

本記事の根拠と時点:本記事は、ウゴービの最適使用推進ガイドライン留意事項通知(令和5年11月21日 保医発1121第2号)、ゼップバウンドの同通知(令和7年3月18日 保医発0318第3号)、疑義解釈資料(その20・令和7年2月26日)等に基づき、2026年6月時点でまとめたものです。施設要件・記載要領は疑義解釈の追補等で更新されるため、算定にあたっては必ず最新の厚労省通知・地方厚生局の案内をご確認ください。個別の算定可否は各医療機関・地方厚生局でご判断ください。

§1. 最適使用推進ガイドラインとは

最適使用推進ガイドライン(GL)は、高額で新規の作用機序をもつ医薬品について、適正使用を推進するために患者・医療機関の要件や留意事項を示す仕組みです。肥満症治療薬のウゴービ・ゼップバウンドはいずれもこの対象品目です。

実務上は、①GL本文 → ②留意事項通知(保医発)→ ③レセプト摘要欄への記載 → ④疑義解釈が連動して運用されます。医療機関は要件を満たしたうえで、保険請求時に摘要欄へ該当事項を記載します。

対象薬 主な根拠通知
ウゴービ(セマグルチド) 最適使用推進ガイドライン(肥満症)留意事項通知:令和5年11月21日 保医発1121第2号
ゼップバウンド(チルゼパチド) 同 作成通知:令和7年3月18日 医薬薬審発0318第1号/留意事項通知:令和7年3月18日 保医発0318第3号(薬価収載 2025年3月19日)

§2. 患者要件 ― 誰に処方できるか

肥満症でウゴービ・ゼップバウンドを保険診療で使うには、次の条件をすべて満たす必要があります。

要件 内容
①合併疾患 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれか1つ以上の診断がある
②BMI基準 BMI 27kg/m²以上かつ肥満に関連する健康障害を2つ以上、またはBMI 35kg/m²以上
③食事・運動療法 治療計画を作成し、当該施設で6か月以上実施しても効果不十分。この間、2か月に1回以上、管理栄養士の栄養指導を受けている
④合併症の治療 本剤開始前に、合併する高血圧・脂質異常症・2型糖尿病に対し適切な薬物療法が行われている

肥満に関連する健康障害(11種): 耐糖能障害/脂質異常症/高血圧/高尿酸血症・痛風/冠動脈疾患/脳梗塞/非アルコール性脂肪性肝疾患/月経異常・不妊/閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群/運動器疾患/肥満関連腎臓病。 BMI27以上の場合は、このうち2つ以上を有することが必要です。

「やせ薬」目的は対象外: これらは肥満症の治療薬であり、健康障害のない美容・ダイエット目的は保険診療の対象になりません。自由診療・適応外使用の危険性は本特集の関連記事で解説します。

§3. 施設要件 ― どの医療機関で処方できるか

処方できるのは、次の施設要件をすべて満たす保険医療機関です(ウゴービの例。ゼップバウンドの肥満症も同様)。

要件 内容
標榜診療科 内科・循環器内科・内分泌内科・代謝内科・糖尿病内科のいずれかを標榜
常勤医師(医師要件) 下記の専門医いずれかを有する常勤医師が1人以上所属し、本剤治療に携われる体制。自施設にいない専門医がいる場合は、当該専門医の所属施設と連携体制を有する
教育研修施設 下記学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設である
管理栄養士 常勤の管理栄養士による適切な栄養指導ができ、実施した指導を診療録等に記録する

医師要件(経験・専門医)

  • 初期研修(2年)修了後、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病および肥満症の診療に5年以上の臨床経験(または医師免許取得後満7年以上で、うち5年以上が当該領域の臨床研修)
  • かつ、日本循環器学会/日本糖尿病学会/日本内分泌学会のいずれかの専門医(日本肥満学会専門医が望ましい)

クリニック(診療所)でも処方できる?

条件を満たせば診療所でも処方可能です。 「大学病院でなければ不可」ではありません。具体的には、①標榜診療科を満たし、②常勤の専門医(循環器/糖尿病/内分泌のいずれか)が所属(不在なら専門医所属施設との連携体制)、③自施設が教育研修施設として認定、④常勤の管理栄養士を配置——を満たす診療所であれば処方できます。実務上は「教育研修施設の認定」と「常勤管理栄養士」が大きなハードルになります(教育研修施設の「関連施設」の取扱いは疑義解釈で一定の猶予が示されています)。

§4. 体制要件 ― 栄養指導と記録

  • 管理栄養士による栄養指導を2か月に1回以上(投与前の6か月間も、投与中も継続)
  • 投与中も適切な食事療法・運動療法を継続し、2か月に1回以上の栄養指導を管理記録等で確認できること
  • 食事・運動療法は患者自身の記録を確認する等で実施を確認し、必要な内容を管理記録に記録する

必要な職種:医師要件を満たす担当医と常勤管理栄養士の関与が必須です。看護師・薬剤師等の専任義務はガイドライン上は規定されていませんが、多職種でのフォローアップが望まれます。

§5. 投与の継続・中止の判断

  • 投与は最大68週間(ウゴービ。日本人で68週超の使用経験がないため)。ゼップバウンド(肥満症)は最大72週が臨床試験上の目安。
  • 投与開始後は毎月、体重・血糖・血圧・脂質を確認。3〜4か月投与しても改善傾向が認められない場合は中止する。
  • 効果が認められた後も2〜3か月に1回以上確認し、効果が不十分となれば中止を検討する。
  • 十分な減量が得られた場合は、68週を待たず中止し、食事・運動療法のみによる管理を考慮する。

補足:「○%以上の体重減少で中止」といった一律の数値基準はガイドライン本文には定められておらず、体重・血糖・血圧・脂質を含めた改善傾向の有無で判断します。本剤による治療計画は「68週以内に投与を中止する計画」として作成します。

§6. レセプト摘要欄の記載と既投与患者の経過措置

新規投与時に摘要欄へ記載する事項(ウゴービの例)

No 記載事項
①標榜診療科名(該当するもの)
②該当する施設(連携の場合は連携施設名・所在地)
③該当する教育研修施設の種類
④常勤の管理栄養士の免許証番号
⑤医師の臨床経験年数(医師要件)
⑥医師の専門医資格(医師要件)
⑦患者の合併疾患(高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のうち該当)
⑧患者のBMI基準
⑨肥満に関連する健康障害(該当する疾患すべて)
⑩食事・運動療法に係る治療計画の作成年月日
⑪管理栄養士の栄養指導を6か月以上受けたことがわかるすべての年月日
⑫合併疾患に投与中のすべての医薬品名
⑬本剤の治療計画(68週以内に中止する計画)の作成年月日

継続投与時は、管理栄養士の栄養指導の直近年月日/初回投与から何週目か/体重・血糖・血圧・脂質の直近測定値と年月日・改善傾向が認められた旨を記載します。

既に投与中の患者の経過措置(疑義解釈その20・令和7年2月26日): 令和7年2月26日以前に既にウゴービの投与を受けている患者は、医学・薬学的に投与が不要となるまで投与が認められます。その場合、留意事項通知(保医発1121第2号)の記(3)B.の記載は不要とし、摘要欄に「投与中患者」+初回投与年月日を記載します。日本内分泌学会・日本糖尿病学会の教育研修施設に該当する場合は、施設要件ケ及びセに該当する旨を記載します。

地方厚生局への届出:ウゴービ・ゼップバウンド専用の地方厚生局への届出義務は、2026年6月時点では定められていません(レセプト摘要欄への記載で運用)。

§7. ゼップバウンドの睡眠時無呼吸(OSAS)適応の違い

ゼップバウンドは肥満症に加え、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)への適応拡大が2026年に承認されました。OSASでは肥満症と要件が一部異なります。

項目 肥満症(共通) OSAS(追加分)
標榜診療科 内科・循環器内科・内分泌内科・代謝内科・糖尿病内科 +呼吸器内科・耳鼻咽喉科
専門医 循環器/糖尿病/内分泌学会 +日本呼吸器学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
患者要件 BMI27+健康障害2つ、またはBMI35 BMI27以上かつ中等症以上のOSAS(AHI15以上、簡易検査ではREI30以上)
食事・運動療法 6か月以上 3か月以上(肥満低換気症候群・心不全合併で早期治療が必要な場合は待機せず考慮)

OSAS適応の保険上の取扱いは要確認: OSAS適応に関する保険適用の具体的な記載要領等は、2026年6月時点で今後の厚生労働省通知により示される段階です。OSASでウゴービは使用できません(OSAS適応はゼップバウンドのみ)。最新の通知・添付文書を必ずご確認ください。

§8. 保険診療と自由診療の違い

項目 保険診療 自由診療(美容・ダイエット目的)
適応・要件 診断基準・施設要件・体制要件を厳守 GL要件は適用されない(医師の裁量)
費用 保険給付(一部負担) 全額自己負担
副作用被害救済 制度の対象 原則対象外
診断名 「肥満症」(治療計画・栄養指導記録を保存) —

医療広告の留意点:「肥満症治療薬」としての情報提供は可能ですが、「痩身・ダイエット」を前面に出す表現や誤認を招く表現は医療広告ガイドライン上認められません。自由診療・個人輸入の危険性は本特集の関連記事で詳しく解説します。

§9. 自院は処方できる?チェックリストと無料書式

自院がウゴービ・ゼップバウンドを処方できるか、まず次の5点を確認してください。

  • 内科系の診療科を標榜しているか
  • 循環器/糖尿病/内分泌のいずれかの専門医が常勤しているか(不在なら連携体制があるか)
  • 各学会の教育研修施設に認定されているか
  • 常勤の管理栄養士がいるか(2か月に1回の栄養指導が可能か)
  • 6か月の食事・運動療法とレセプト摘要欄①〜⑬の証跡を残せるか

無料ダウンロード書式: 要件の自己点検と証跡管理に使えるExcel書式を無料で提供します。施設ごとの様式カスタマイズや体制整備のご相談はお問い合わせより承ります。

関連記事:糖尿病・肥満症治療薬の全体像(完全マップ)/「やせ薬」の危険性・個人輸入のリスク/やせ薬のよくある質問(Q&A)/食事・栄養に関する加算ガイド

§10. よくある質問(FAQ)

Q. クリニック(診療所)でもウゴービを処方できますか?

A. 施設要件を満たせば可能です。標榜診療科、常勤の専門医(循環器/糖尿病/内分泌のいずれか。不在なら連携)、教育研修施設の認定、常勤の管理栄養士の配置がそろえば、診療所でも処方できます。実務上は教育研修施設の認定と常勤管理栄養士がハードルになります。

Q. 栄養指導はどのくらいの頻度で必要ですか?

A. 管理栄養士による栄養指導を2か月に1回以上です。投与前の6か月間も、投与中も継続し、管理記録で確認できるようにします。

Q. BMIがいくつから保険適用ですか?

A. BMI35kg/m²以上、またはBMI27kg/m²以上で肥満に関連する健康障害を2つ以上有する場合です。いずれも高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかがあり、6か月以上の食事・運動療法で効果不十分であることが前提です。

Q. ウゴービとゼップバウンドで施設要件は違いますか?

A. 肥満症に対する施設・患者・体制要件はほぼ同じです。違いは、ゼップバウンドが中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群にも適応拡大された点で、その場合は呼吸器内科・耳鼻咽喉科の標榜や関連学会の専門医など要件が追加されます。

Q. 自由診療で処方する場合の注意点は?

A. 自由診療では最適使用推進ガイドラインの要件は適用されず、費用は全額自己負担、医薬品副作用被害救済制度も原則対象外です。美容・ダイエットを前面に出す広告は医療広告ガイドライン上認められません。適応外使用・個人輸入の危険性は本特集の関連記事をご覧ください。

参考文献・出典

  • 厚生労働省「セマグルチド(遺伝子組換え)製剤に係る最適使用推進ガイドライン(肥満症)の作成に伴う留意事項について」令和5年11月21日 保医発1121第2号
  • 厚生労働省「チルゼパチド製剤の最適使用推進ガイドライン(肥満症)の作成について」令和7年3月18日 医薬薬審発0318第1号/同 留意事項通知 保医発0318第3号
  • 厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その20)」令和7年2月26日(ウゴービ既投与患者の取扱い)
  • ウゴービ皮下注・ゼップバウンド皮下注 電子添文(PMDA)
  • 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン」(肥満症の定義・肥満に関連する健康障害)
  • ※本記事の情報は2026年6月時点。施設要件・記載要領・OSAS適応の保険上の取扱いは更新される場合があるため、最新の厚労省通知・添付文書をご確認ください。