嚥下機能評価の代表的ツール5種(RSST・MWST・FT・VE・VF)について、実施手順・判定基準・適応・限界をエビデンスベースで整理した実践ガイドです。スクリーニング→観察評価→精密検査の段階的フローと、病院・介護施設・在宅それぞれの場面での選び方、多職種カンファレンスでの活用方法、令和8年度改定の嚥下調整食特別食加算新設まで網羅しています。
§1. 嚥下機能評価の全体像
嚥下機能評価は、「誤嚥リスクの早期発見」「食形態の調整判断」「経管栄養導入の判断」「加算算定要件の充足」を目的として行われます。現場では以下の段階的フローに沿って、患者の状態と環境に応じたツールを選択します。
学会推奨(耳鼻咽喉科ガイドライン2024年版 p.52):
「嚥下障害が疑われるものの、ただちに嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)を行えない場合には簡易検査を行うことを勧める。【強い推奨、合意率88%(14/16)】」
段階的評価フロー
├ RSST(反復唾液嚥下テスト)— 道具不要・最も安全
├ MWST(改訂水飲みテスト)— 冷水3mL・5段階評価
└ FT(フードテスト)— プリン4g・口腔期〜咽頭期評価
▼ 異常あり / さらなる評価が必要
Step 2:観察評価(実食場面)
└ ミールラウンド(多職種・食事観察・月1回以上)
▼ 精密評価が必要
Step 3:精密検査
├ VE(嚥下内視鏡検査)— ベッドサイド・訪問可・720点
└ VF(嚥下造影検査)— 透視室・口腔〜食道期評価
| ツール | 分類 | 対象 | 実施場所 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|---|---|---|
| RSST | スクリーニング | ほぼ全患者 | 床上・どこでも | 0.98 | 0.66 |
| MWST | スクリーニング | 意識清明例 | 床上 | 1.0 | 0.71 |
| FT | スクリーニング | 水分安定後 | 床上 | 1.0 | 0.82 |
| ミールラウンド | 観察評価 | 全入所者 | 食堂・居室 | — | — |
| VE | 精密検査 | 精密評価が必要な例 | ベッドサイド・在宅可 | — | — |
| VF | 精密検査 | 詳細動態評価が必要な例 | 透視室 | — | — |
関連加算との連動:嚥下機能評価の結果は、介護保険の経口維持加算・経口移行加算の算定要件解説(食事に関する加算ガイド)、医療保険の摂食嚥下機能回復体制加算の算定要件と連動します。評価ツールの選定は主治医・ST・多職種チームで協議してください。
書式:摂食嚥下機能回復体制加算の算定に使う摂食嚥下支援計画書(Excel・無料ダウンロード)、多職種での検討記録にはカンファレンス記録書・記入例もご利用ください。
§2. RSST(反復唾液嚥下テスト)
RSSTは小口和代らが1990年代に開発した嚥下スクリーニング検査です。道具を使わず安全に実施でき、感度0.98と非常に高いため、最初のスクリーニングとして広く用いられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Repetitive Saliva Swallowing Test(RSST) |
| 開発者 | 小口和代、才藤栄一ら(1990年代) |
| 感度 / 特異度 | 感度 0.98 / 特異度 0.66(VF比較・131例) |
| カットオフ値 | 30秒間に3回(2回以下で陽性) |
| 推奨グレード | 強い推奨、合意率88%(耳鼻咽喉科GL2024年版) |
実施手順
「RSSTは、背もたれのない椅子または車椅子座位で行った。被検者には頸部位置について特に制限をせず、リラックスさせた。検者は、被検者の喉頭隆起および舌骨に第2指と第3指の指腹を軽くあて、空嚥下運動を30秒間繰り返させた。検者は、被検者に『なるべく速く、10回繰り返して飲み込むこと』を指示した。喉頭隆起と舌骨は、嚥下運動に伴って指腹を乗り越え上前方に移動し、また元の位置へと戻る。この下降時点を嚥下完了時点とした。嚥下運動時に起きる喉頭挙上から下降運動までを触診で確認し、30秒間に起こる嚥下回数を数えた。」
判定基準
「3回/30秒間をカットオフ値」「30秒間に3回未満の場合にテスト陽性、すなわち問題ありとする。」
感度・特異度のエビデンス
「誤嚥の有無の判別に関する感度と特異度は、0.98、0.66」「対象:機能的嚥下障害が疑われる患者131例」「検査法:RSSTと嚥下ビデオレントゲン造影(VF)所見を比較」
口頭指示が困難な患者への対応
「口頭指示理解が不良な場合は判定不可とする。例えば、『手をあげて下さい』などの指示に従えなければ判定不可とみなす。」
偽陽性に注意:脱水・薬剤性口腔乾燥・唾液分泌低下がある患者では、嚥下機能が正常でも唾液が少なく回数が減り、誤って陽性判定となる場合があります。口腔内の状態(乾燥・疼痛)を確認した上で結果を解釈してください。
個別判断について:RSST の結果解釈・次のアクション選択は、ST・主治医・多職種チームで協議してください。本記事は一般的な解説を目的とし、個別症例の医療判断を代替するものではありません。
§3. MWST(改訂水飲みテスト)
MWSTは才藤栄一らが1999年に提唱した嚥下スクリーニング検査です。冷水3mLを用いて嚥下能力を5段階で評価します。感度1.0と誤嚥の見逃しがなく、RSSTに続く第2のスクリーニングとして位置づけられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Modified Water Swallowing Test(MWST) |
| 開発者 | 才藤栄一ら(1999年) |
| 使用物品 | 冷水 3mL、注射器またはスプーン |
| 感度 / 特異度 | 感度 1.0 / 特異度 0.71(カットオフ4点・VF比較) |
| カットオフ値 | 4点以上で正常域(3点以下は精密評価を検討) |
実施手順
「冷水 3mLを口腔底に注ぎ、嚥下を指示する。咽頭に直接水が流れこむのを防ぐため、舌背ではなく口腔底に水を注ぐ。評価点が4点以上であれば、最大でさらにテストを2回繰り返し、最も悪い場合を評価点とする。」
5段階評価基準
- 1点:嚥下なし、むせる and/or 呼吸切迫
- 2点:嚥下あり、呼吸切迫
- 3点:嚥下あり、呼吸良好、むせる and/or 湿性嗄声
- 4点:嚥下あり、呼吸良好、むせなし
- 5点:4に加え、追加嚥下が30秒以内に2回可能
湿性嗄声とは:嚥下後に「あー」と発声させたとき、声がかすれて濁って聞こえる状態です。声帯近くに食塊や唾液が残留しているサインです。
感度・特異度のエビデンス
「カットオフ値を4点とした場合、摂食嚥下障害者において、改訂水飲みテストがVFで確認された誤嚥を検出する感度は1.0、特異度は0.71と報告されている」
実施前の注意:口腔ケアを行い口腔内を清潔にした上で実施してください(学会「評価 2019」p.25)。意識障害・嚥下反射が著しく低下している患者、重度認知症で口頭指示が通じない患者への実施は誤嚥リスクがあります。実施の可否は主治医・STと事前に確認してください。
個別判断について:MWST の結果解釈・経口摂取の可否判断は、スクリーニング結果のみに依拠せず、ST・主治医・多職種チームで総合的に協議してください。
§4. FT(フードテスト)
フードテスト(FT)は才藤らがMWSTを補完するために考案した評価法です。プリン状の食物を用いることで、水分評価では分からない口腔期から咽頭期にかけての評価が可能です。水分で問題がなかった患者に対して、固形物(ゼリー・プリン状食品)への移行可否を判断する際に用います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Food Test(FT) |
| 使用食品 | プリン(ティースプーン1杯・約3〜4g) |
| 嚥下調整食分類 | 学会分類2021 コード「1j」(ゼリー・プリン・ムース状) |
| 感度 / 特異度 | 感度 1.0 / 特異度 0.82(カットオフ4点) |
| カットオフ値 | 4点以上で正常域(3点以下は精密評価を検討) |
実施手順
「ティースプーン一杯(約4g)のプリンを嚥下させ、嚥下後に口腔内を観察し、残留の有無、位置、量を確認する」
「嚥下しやすいティースプーン1杯(3〜4g)のプリンなどを用いることが一般的である。」
5段階評価基準
- 1点:嚥下なし、むせる and/or 呼吸切迫
- 2点:嚥下あり、呼吸切迫
- 3点:嚥下あり、呼吸良好、むせる and/or 湿性嗄声、口腔内残留中等度
- 4点:嚥下あり、呼吸良好、むせなし、口腔内残留ほぼなし
- 5点:4に加え、反復嚥下が30秒以内に2回可能
実施時の注意:FT はMWST 評価後に行うことが基本です。MWSTで3点以下の患者に対してプリンを使用すると誤嚥リスクが高まります。実施の可否は主治医・STと確認してください。
評価者間の差について:FT は口腔内残留の「有無・位置・量」を観察する主観的要素が残り、評価者間で判定が一致しづらい課題が指摘されています。評価者間で判定基準を事前に確認し、複数職種で実施結果を検討することが望ましいです。
個別判断について:FT 結果のみで食形態を決定することは避け、ST・主治医・管理栄養士・多職種チームで総合的に判断してください。
§5. ミールラウンド(観察評価)
ミールラウンドは、実際の食事場面で多職種が患者の摂食状態を観察する評価方法です。RSST・MWST・FT などのスクリーニング検査が「検査場面での評価」であるのに対し、ミールラウンドは「日常の食事場面での総合評価」として位置づけられます。
主な観察項目(9項目)
| 観察項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 食事姿勢 | 座位保持・頸部の角度・体幹の安定性 |
| 嚥下状態 | むせの有無・喉頭挙上・嚥下回数 |
| 咀嚼状態 | 義歯の適合・咀嚼回数・口腔内残留 |
| 食事ペース | 速すぎ・遅すぎ・まとめ食い |
| 食事時間 | 30分以上かかる場合は疲労・嚥下機能低下を疑う |
| 摂食量 | 主食・副食・水分それぞれの摂取割合 |
| 表情・意欲 | 食事への興味・拒食・覚醒レベル |
| 痰の状況 | 食後の痰増加・湿性咳嗽・ゴロゴロ音 |
| 特記事項 | 口腔ケア状態・薬の影響・環境要因 |
経口維持加算Ⅰの算定要件(令和6年度介護報酬改定):
「月1回以上、医師、歯科医師、管理栄養士、看護職員、言語聴覚士、介護支援専門員その他の職種の者が共同して、入所者の栄養管理をするための食事の観察及び会議等を行う」ことが義務付けられています。ミールラウンドはこの要件を満たす中心的な活動です。
ミールラウンド記録の詳細:観察記録の書き方・多職種での共有方法・記録表の使い方については、ミールラウンド記録表の書き方と多職種共有の実践ガイドをご参照ください。書式はミールラウンド記録表テンプレート(Excel・無料ダウンロード)・記入例版をご利用ください。
経口維持計画書との連動:ミールラウンドの結果は経口維持計画書に反映します。計画書の書き方は経口維持計画書の書き方完全ガイド(介護保険・経口維持加算用)をご参照ください。経口維持計画書テンプレート(Excel・無料ダウンロード)もご利用いただけます。
§6. VE(嚥下内視鏡検査)
VE(嚥下内視鏡検査・FEES)は、経鼻内視鏡を咽頭に挿入し、嚥下時の喉頭・咽頭の動きをリアルタイムで観察する精密検査です。X線被曝がなく、ベッドサイドや訪問診療でも実施できる機動性が最大の特長です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Fiberoptic Endoscopic Evaluation of Swallowing(FEES) |
| 保険算定 | D298-2 内視鏡下嚥下機能検査 720点(令和6年度改定) |
| 実施場所 | 外来・病棟・ベッドサイド・訪問診療(携帯型内視鏡) |
| X線被曝 | なし |
| 推奨グレード | 強い推奨、合意率100%(耳鼻咽喉科GL2024年版 p.55) |
実施手順・観察項目
「通常の喉頭内視鏡検査に準じる。内視鏡を挿入する際の麻酔は特に必要としないが、鼻腔粘膜を軽度表面麻酔してもよい。」
観察項目:
- (1) 鼻咽腔閉鎖機能
- (2) 咽頭の観察
- (3) 喉頭の観察
- (4) 唾液貯留や食物残留
- (5) 咽頭・喉頭の感覚
判定指標の定義
- 早期咽頭流入:「嚥下を指示する前に着色水が咽頭に流入する場合」
- 嚥下反射惹起のタイミング:「口腔内に保持した着色水を嚥下するように指示し、嚥下反射の惹起するタイミングを観察する」
- 咽頭残留:「喉頭蓋谷や梨状陥凹の唾液貯留や食物残留の有無や程度を観察する」
- 喉頭侵入:「喉頭蓋自由縁より下に流入する場合を喉頭侵入」
- 誤嚥:「さらに声門を越えて気管内に流入する場合を誤嚥と定義する」
- 不顕性誤嚥:「気管内侵入後10秒間以上むせない」
VEの推奨グレード
「嚥下内視鏡検査は治療法の選択に有用か? 推奨:嚥下内視鏡検査は、治療方針を決定するうえで有用であり、施行することを勧める。【強い推奨、合意率100%(16/16)】」
VEの限界
「嚥下反射が生じるとホワイトアウトになる。正常であれば...着色水の流入をほとんど観察することなくホワイトアウトとなるが、惹起が遅れると...ホワイトアウトの前に流入を観察することができる。」「口腔期が観察できないこと...などが欠点である。」
保険算定(D298-2)
D298-2 内視鏡下嚥下機能検査 720点
算定条件:「嚥下機能が低下した患者に対して、喉頭内視鏡等を用いて直接観察下に着色水を嚥下させ、嚥下反射惹起のタイミング、着色水の咽頭残留及び誤嚥の程度を指標に嚥下機能を評価した場合に算定する。」
在宅・訪問診療でのVE実施
「必要器材を携行すればベッドサイドや訪問診療でも実施できる。」
オリンパス・富士フイルム等から小型・軽量な経鼻内視鏡が提供されており、訪問診療や訪問リハビリでの導入例が増えています。ただし訪問VEの保険適用の詳細は現行法上の明確な統一ルールがなく、地域・施設により対応が異なります。
個別判断について:VE の実施適応・結果解釈・治療方針決定は、耳鼻咽喉科医・ST・主治医・多職種チームで行ってください。
§7. VF(嚥下造影検査)
VF(嚥下造影検査・VFSS)は、X線透視下でバリウム造影剤を含む食物を嚥下させ、口腔期から食道期までの嚥下動態を動画で記録・評価する精密検査です。口腔期の評価が必要な場合や、食道入口部の通過障害が疑われる場合に特に有用です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Videofluoroscopic examination of swallowing(VFSS) |
| 実施場所 | 透視室(病院のみ・在宅実施不可) |
| X線被曝 | あり(実効線量 約0.4 mSv) |
| 造影剤 | 硫酸バリウム懸濁液(ヨード剤は誤嚥時の肺毒性リスクあり・使用回避) |
| 保険算定 | 独立した点数区分なし(透視診断料等の組み合わせで算定) |
実施手順
「立位ないし座位で検査を実施する。側面と正面の2方向での透視検査が基本で、それぞれについて透視所見のビデオ録画と写真撮影を行う。」
評価できる嚥下動態
| 嚥下フェーズ | 評価内容 |
|---|---|
| 口腔期 | 咀嚼・食塊形成・口腔から咽頭への送り込み |
| 咽頭期 | 喉頭挙上・喉頭蓋閉鎖・食道入口部の開大 |
| 食道期 | 食道の通過状態 |
| 誤嚥タイミング | 嚥下前(送り込み前)/ 嚥下中(嚥下反射中)/ 嚥下後(残留からの流入) |
保険算定の注意事項
VFの保険算定に関する重要事項:「嚥下造影検査」という独立した保険点数区分は存在しません。臨床現場では以下の既存手技を組み合わせて算定します。
・透視診断料(E001:110点)
・造影剤注入手技料(E003:240点程度)
・撮影料(デジタル撮影 E002:144点等)
合計でおおよそ500点前後となります(施設・撮影方法により異なります)。
出典:しろぼんねっと 医科診療報酬点数表 第1節 エックス線診断料
VEとVFの使い分け
「嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査の比較に関する文献的考察を行い、両検査は互いの利点・欠点を補い合うべきものだとした。そのうえで、嚥下内視鏡検査の大きな利点の一つとして、その優れた機動性と簡便性を挙げている。」
| 比較項目 | VE(嚥下内視鏡) | VF(嚥下造影) |
|---|---|---|
| 実施場所 | ベッドサイド・在宅・施設訪問可 | 透視室(病院のみ) |
| X線被曝 | なし | あり(約0.4 mSv) |
| 観察範囲 | 咽頭期・喉頭(口腔期は観察不可) | 口腔期〜食道期(全フェーズ) |
| 得意な評価 | 咽頭残留・不顕性誤嚥・感覚評価 | 口腔期・食道入口・嚥下動態の連続記録 |
| 保険点数 | D298-2:720点 | 独立点数なし(組み合わせ算定・約500点前後) |
| 繰り返し実施 | 容易(被曝なし) | 被曝考慮で回数制限 |
個別判断について:VF の実施適応・結果解釈・食形態選択への反映は、ST・耳鼻咽喉科医・主治医・管理栄養士・多職種チームで行ってください。
§8. 場面別の使い分け実践
病院(急性期・回復期)
| タイミング | 推奨ツール | 目的 |
|---|---|---|
| 入院時・術後 | RSST → MWST | 嚥下リスクの迅速スクリーニング |
| スクリーニング異常時 | FT → VE または VF | 誤嚥リスクの精密評価・食形態決定 |
| 経過中(月1回等) | ミールラウンド + 必要時 VE | 摂食状況・食形態の継続モニタリング |
| 退院前 | VE(在宅移行の可否判断) | 在宅での経口摂取継続の安全性確認 |
回復期リハ病棟での運用:ST 主導でVE/VFを含む包括的評価プロトコルを組む施設が増えています。入院時→月1回再評価→退院前評価のサイクルが標準的です。
介護施設(特養・老健・介護医療院)
| タイミング | 推奨ツール | 目的 |
|---|---|---|
| 入所時 | RSST + MWST | 誤嚥リスクの初期アセスメント |
| 月1回以上(定期) | ミールラウンド(多職種) | 経口維持加算Ⅰ算定要件の充足 |
| 状態変化時 | RSST + MWST 再実施 | 食形態変更・経管栄養移行の判断材料 |
| 精密評価が必要な場合 | 訪問VE または病院VFへの紹介 | 協力医療機関との連携で精密評価 |
ST 不在施設での対応:ST が常駐していない施設では、看護職が RSST・MWST を実施し、異常時は訪問 ST への依頼や協力医療機関への紹介で対応します。訪問 ST・在宅リハ職との連携体制を事前に整備しておくことが重要です。
在宅医療・訪問看護
| タイミング | 推奨ツール | 目的 |
|---|---|---|
| 訪問時(毎回) | RSST + 食事場面の観察 | 嚥下状態のモニタリング |
| 状態変化時 | MWST(実施可能な患者に限る) | 誤嚥リスクの確認 |
| 精密評価が必要な場合 | 訪問VE(携帯型内視鏡・医師主導) | 在宅でのリアルな食事環境下での評価 |
| 病院受診が可能な場合 | VF(透視室) | 口腔期を含む詳細評価 |
経管栄養との連動:嚥下機能評価の結果から経管栄養の導入・離脱を判断する際は、栄養剤の選択も重要です。経管・経腸栄養剤ガイド(種類・選び方ハブ)・低栄養への栄養剤・補助食品の使用場面別ガイド・病態別・周術期の経腸栄養剤選択ガイドも参照してください。
§9. 多職種カンファレンスでの活用と経口維持加算連携
嚥下機能評価の結果は、個人の記録にとどまらず多職種カンファレンスで共有し、食形態・訓練方針・加算算定に活用することが重要です。
評価結果の共有方法
| 評価ツール | カンファレンスでの共有ポイント | 活用先 |
|---|---|---|
| RSST・MWST・FT | 点数・変化傾向・異常所見 | 食形態調整の根拠提示 |
| ミールラウンド記録 | 摂食量・姿勢・むせの頻度・食事時間 | 経口維持加算算定要件の記録 |
| VE・VF所見 | 誤嚥の有無・残留の程度・推奨食形態 | 経口維持加算Ⅰ・Ⅱの算定根拠 |
嚥下調整食学会分類2021 との対応
評価結果を嚥下調整食のコードに落とし込むことで、多職種間での食形態の共通言語が生まれます。
- 0j(嚥下訓練食品):「均質で、付着性・凝集性・かたさに配慮したゼリー。離水が少なく、スライス状にすくうことが可能なもの」
- 0t(とろみ水):「均質で、付着性・凝集性・かたさに配慮したとろみ水(原則的には、中間のとろみ以上のどちらかが適している)」
- 1j(嚥下調整食):「均質で、付着性、凝集性、かたさ、離水に配慮したゼリー・プリン・ムース状のもの」
- 2-1(嚥下調整食):「ピューレ・ペースト・ミキサー食など、均質でなめらかで、べたつかず、まとまりやすいもの。スプーンですくって食べることが可能なもの」
- 2-2(嚥下調整食):「ピューレ・ペースト・ミキサー食など、べたつかず、まとまりやすいもので不均質なものも含む。スプーンですくって食べることが可能なもの」
- 3(嚥下調整食):「形はあるが、押しつぶしが容易。食塊形成や移送が容易。咽頭ではばらけず嚥下しやすいように配慮されたもの。多量の離水がない」
- 4(嚥下調整食):「かたさ・ばらけやすさ・貼りつきやすさなどのないもの。箸やスプーンで切れるやわらかさ」
評価結果と推奨食形態の目安
| 評価ツール結果 | 推奨食形態(嚥下調整食コードの目安) |
|---|---|
| RSST 異常(2回以下) | まずMWST・FTへ。水分はとろみつきから検討 |
| MWST 1〜2点 | コード 0t(とろみ水)から開始 |
| MWST 3点 | コード 0j〜1j を検討 |
| MWST 4点・FT 4点 | コード 2-1〜3 へ段階的に移行 |
| MWST 5点・FT 5点 | コード 3〜4 への移行を検討 |
| VE/VF で誤嚥所見あり | より安全なコード(0j/0t/1j)に戻す |
重要:上表は目安です。食形態の変更は必ず主治医・ST・管理栄養士・多職種チームで協議し、個々の患者に応じた判断を行ってください。
経口維持加算との連動
経口維持加算の算定要件(令和6年度介護報酬改定):
- 加算Ⅰ(月400単位):摂食機能障害を有し、水飲みテスト・内視鏡検査等により誤嚥が認められる入所者に対し、多職種が共同して経口維持計画を作成し、継続的な支援を実施
- 加算Ⅱ(月100単位):加算Ⅰに加え、多職種カンファレンスに医師・歯科医師・ST のいずれか1名が参加
「水飲みテスト・造影撮影・内視鏡検査等により誤嚥が認められる」ことが要件であり、特定の検査法の指定はありません。RSST・MWST・VE・VF いずれも活用できます。
関連ガイド:食事に関する加算ガイド(経口維持加算・口腔機能向上加算等)では、経口維持加算・経口移行加算の算定要件を詳しく解説しています。
§10. 令和8年度改定 重要トピック|嚥下調整食が特別食加算の対象に
令和8年6月1日施行:入院時食事療養費の特別食加算に「嚥下調整食」が新設追加されます。嚥下機能評価と栄養管理の連動がより重要になります。
特別食加算「嚥下調整食」の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象患者 | 摂食機能・嚥下機能が低下した患者 |
| 必須要件① | 医師の食事せん(食事指示)に基づく提供 |
| 必須要件② | 嚥下調整食学会分類2021のコードに基づく食形態 |
| 必須要件③ | 患者に適切な栄養含有であること |
| 施行日 | 令和8年(2026年)6月1日 |
入院時食事療養費(食費)の引き上げ
同時に、食材費高騰を踏まえ入院時食事療養費(食費)が引き上げられます。
| 項目 | 改定前 | 改定後(令和8年6月〜) |
|---|---|---|
| 入院時食事療養費(食費・1食) | 690円 | 730円 |
嚥下機能評価との連動
特別食加算「嚥下調整食」の算定には、医師の食事指示に嚥下調整食学会分類2021 のコードを明記することが必要です。食形態決定の根拠として嚥下機能評価(RSST・MWST・VE・VF等)の記録が重要性を増します。
背景と効果:嚥下調整食は調理に手間と時間がかかるため高コストです。今回の加算対象化により、病院側の調理コストが補填されます。また食事内容改善による患者の摂食量増加・エネルギー摂取改善・ADL改善・在院日数短縮効果も期待されます。
⚠️ 疑義解釈・詳細要件:具体的な算定要件・体制等は2026年度診療報酬改定の疑義解釈通知を必ずご確認ください。施行後も通知の追加・修正が行われる場合があります。出典:GemMed「入院時食事療養費等の特別食加算の対象『嚥下調整食』、加算算定のための要件や体制等を詳説」/ 日本栄養士会「令和8年度診療報酬改定のポイント」
§11. よくある質問(FAQ)
Q1. RSSTとMWSTはどちらを先に実施すべきですか?
通常はRSSTから実施します。RSSTは唾液嚥下のみで道具不要・誤嚥リスクなく安全に評価できるため、最初のスクリーニングに適します。RSSTで異常(30秒間に2回以下)が確認された場合、または嚥下能力をさらに評価したい場合にMWSTを追加します。MWSTは水を口腔底に注ぐため、意識レベル・嚥下反射が不十分な患者には誤嚥リスクがあります。耳鼻咽喉科ガイドライン2024年版でも簡易検査として両者は強い推奨グレードで推奨されています。
Q2. 介護施設でVE検査は実施できますか?
訪問VE(携帯型内視鏡)で実施可能です。耳鼻咽喉科ガイドライン2024年版は「必要器材を携行すればベッドサイドや訪問診療でも実施できる」と明記しています。実施には医師の管理下で行う必要があり、協力医療機関(耳鼻咽喉科・嚥下専門クリニック等)との連携が前提です。オリンパス・富士フイルム等から小型・軽量な経鼻内視鏡が提供されており、訪問診療での導入例が増えています。ただし機器コスト・技術研修・在宅での保険適用の詳細は施設・地域により異なります。
Q3. VEとVFはどう使い分けますか?
目的と環境で使い分けます。VE(嚥下内視鏡検査・720点)は機動性と簡便性が利点で、ベッドサイド・在宅・施設訪問でも実施可能です。咽頭・喉頭の感覚評価や残留・誤嚥の直接観察に適します。一方VF(嚥下造影検査)は口腔期から食道期まで連続的に視覚化でき、口腔操作・食塊形成・食道入口部の通過状態まで評価できます。透視室での実施が必要で、X線被曝(約0.4 mSv)を伴います。耳鼻咽喉科ガイドラインでも「互いの利点・欠点を補い合うべき」とされ、症例に応じた使い分けが推奨されます。
Q4. MWST 4点以上なら経口摂取可能と判断してよいですか?
スクリーニング結果のみでの判断は不十分です。MWST 4点・5点は「3mLの冷水で嚥下後の呼吸良好・むせなし」という限定的な評価です。食事量・食形態・連続嚥下能力・誤嚥性肺炎リスクなどの総合判断には、ミールラウンド(実食観察)・VE/VF などの追加評価が必要です。耳鼻咽喉科ガイドライン2024年版でも、簡易検査で異常が認められた場合は精密検査での確認が推奨されています。個別症例の判断は必ず主治医・ST・多職種チームに委ねてください。
Q5. 嚥下機能評価の頻度はどのくらいですか?
状態安定時は月1回程度、状態変化時は随時実施します。経口維持加算Ⅰの算定要件では「月1回以上、医師、歯科医師、管理栄養士、看護職員、言語聴覚士等が共同して食事の観察及び会議等を行う」とされています(令和6年度介護報酬改定)。経口維持計画書の更新タイミングと連動させると効率的です。状態変化(食形態変更・誤嚥発生・退所予定など)時は加算要件と関係なく随時再評価が推奨されます。
Q6. 認知症患者でMWSTができない場合はどうすればよいですか?
RSST・ミールラウンド・VEを組み合わせて評価します。MWSTは口頭指示理解が必要なため、認知症進行や意識障害例では実施困難です。代替として、①ミールラウンドで実食時の誤嚥兆候・むせ・湿性嗄声を観察する、②VEは意識レベルに関わらず実施可能で残留・誤嚥を直接観察できる、③RSSTは指示理解不能な場合は判定不可とするが、日常の自然な嚥下様子を参考にする、という方法を組み合わせます。家族からの食事状況聴取も重要な評価情報です。
関連ガイドのご案内:嚥下評価と連動する食事加算・書式・栄養剤選択については以下もご参照ください。
・食事に関する加算ガイド(経口維持加算・口腔機能向上加算等のハブ)
・ミールラウンド記録表の書き方と多職種共有の実践ガイド
・経口維持計画書の書き方完全ガイド(介護保険・経口維持加算用)
・経管・経腸栄養剤ガイド(種類・選び方ハブ)
・低栄養への栄養剤・補助食品の使用場面別ガイド
・病態別・周術期の経腸栄養剤選択ガイド
参考文献
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会編「嚥下障害診療ガイドライン2024年版」(2024年)
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食嚥下障害の評価 2019」(2019年)
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」早見表(2021年)
- 日本耳鼻咽喉科学会「嚥下障害診療ガイドライン2018年版」(2018年)
- 日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」
- 小口和代, 才藤栄一ら「機能的嚥下障害スクリーニングテスト『反復唾液嚥下テスト』(RSST) の検討 (2) 妥当性の検討」リハビリテーション医学 2000; 37: 383-388
- 小口和代「機能的摂食・嚥下障害スクリーニングテスト『反復唾液嚥下テスト』の開発と応用」藤田学園医学会誌 2004
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(経口維持加算関連)(2024年)
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定における改定事項について」(2026年)
- 令和6年度診療報酬改定「医科点数表」D298-2 内視鏡下嚥下機能検査(2024年)
- しろぼんねっと「医科診療報酬点数表 第1節 エックス線診断料」
- GemMed「入院時食事療養費等の特別食加算の対象『嚥下調整食』、加算算定のための要件や体制等を詳説」(2026年)
- 栄養NEWS ONLINE「【令和8年度診療報酬改定】入院時食事療養/入院時生活療養」(2026年)
- 公益社団法人 日本栄養士会「令和8年度診療報酬改定のポイント」(2026年)
- 横浜市「令和6年度介護報酬改定」資料(2024年)