複数の施設に退院先として打診したにもかかわらず、すべて断られてしまう——そのような状況は、退院支援の現場で珍しくありません。施設に断られる理由は「医療処置・行動・費用」の3パターンに整理できます。本記事では、原因別の突破口と再アプローチのフローチャートを使って、どんな難航ケースにも対応できる方法を、MSW・退院支援担当者・看護師向けに具体的に解説します。(令和6年度時点の情報に基づきます)
「退院支援でどこも断られる」と感じていませんか?
複数の施設に打診したけれど、すべて断られてしまった。退院支援でどこも断られる状況に陥り、もう手詰まりだと感じていませんか?
退院支援の現場では、医療依存度が高い患者・行動症状のある患者・費用面で課題がある患者の受け入れ先を探すことが、特に難しい局面のひとつです。施設に断られる患者への対応は、退院先が見つからない状況を打開するための実践的なアプローチを知ることから始まります。
「断られた」という事実だけで落ち込む必要はありません。断られた理由を正確に把握し、分類することが、次の一手を見つける最短ルートです。
よくある課題|断られ続ける状況の言語化
退院支援の担当者が直面しやすい3つの状況を整理します。
- 医療依存度が高い患者で施設が見つからない
気管切開・人工呼吸器・頻回吸引・透析など、施設側の看護師配置や設備では対応できない処置がある患者。「医療がやりたいならうちでは難しい」と言われ続けるケースです。 - 行動症状や感染症を理由に断られる
認知症のBPSD(暴言・夜間不穏・徘徊)や、MRSA等の薬剤耐性菌の保菌を理由に断られるケース。施設スタッフや他の入居者への影響を懸念されることが多いです。 - 費用が払えないため受け入れ先が見つからない
有料老人ホームの月額費用を支払う資力がなく、特養の順番が回ってこない。費用面で詰まってしまうケースです。
原因|施設に断られる構造的な理由
施設が患者の受け入れを断る背景には、単純な「嫌がっている」以上の構造的な理由があります。
まず、介護保険施設における医療処置の提供には、法令上の制約があります。介護職員が喀痰吸引・経管栄養を実施するには、研修修了と登録特定行為事業者への登録が必要です。体制が整っていない施設では、夜間の高度な医療処置への対応が物理的に不可能です。
次に、BPSDの強い患者については、少人数ケアを行うスタッフへの負担増加・他の入居者の生活環境への影響という観点から、施設が慎重になるのは理解できる側面もあります。ただし、適切な医療・環境調整によって改善するケースも多くあります。
感染症については、施設側の知識不足や風評リスクへの懸念が断る理由になっていることが少なくありません。しかし、厚労省のガイドラインは「薬剤耐性菌の保菌のみを理由とした拒否」を明確に否定しています。
費用の問題は、施設の経営上の判断と患者の経済状況のミスマッチです。使える公的制度を把握することが解決の鍵になります。
解決策|断られる理由を分類して突破口を開く
ステップ1:断られる理由の3分類を把握する
まず、なぜ断られたのかを3つに分類します。これが突破口への第一歩です。
| 分類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| ① 医療処置の問題 | 施設の看護師配置・設備で対応できない処置がある | 気管切開・人工呼吸器・頻回な吸引・透析 |
| ② 行動・リスクの問題 | スタッフや他の入居者に影響を与える可能性がある | 暴言・暴力・夜間不穏・徘徊・感染症(MRSA等)の保菌 |
| ③ 費用の問題 | 施設が求める費用を支払えない | 特養の順番が来ない・有料老人ホームの月額費用が払えない |
ポイント:断られた後にすぐ別の施設を探し始める前に、「なぜ断られたのか」を施設に確認することを優先してください。「今回は対応が難しい理由を教えていただけますか?」と一言聞くだけで、次のアプローチが大きく変わります。
ステップ2:断られた後の再アプローチフロー
以下のフローに従って、断られた後の行動を整理してください。
断られた
↓
【断られた理由を施設に確認する】
「今回は対応が難しい理由を教えていただけますか?」と丁寧に確認
↓
断られた理由を3分類に当てはめる
↓
├─ 医療処置の問題 → 対応可能な施設種別に絞り込む
├─ 行動・リスクの問題 → 専門施設への相談・症状コントロールの検討
└─ 費用の問題 → 利用可能な制度(生活保護・特養・補足給付)の確認
↓
条件を見直した上で再打診
(複数施設への同時打診・民間紹介サービスの活用も検討)
ステップ3:分類別の具体的な対応策
| 断られた理由 | 具体例 | 対応策 | 相談先 |
|---|---|---|---|
| 医療処置が対応不可 | 人工呼吸器・頻回吸引 | 介護医療院(Ⅰ型)・医療療養病床・ナーシングホームを検討。夜間看護配置の有無を確認する | 地域連携室・民間紹介サービス |
| 認知症のBPSD | 暴言・夜間不穏・徘徊 | 認知症専門棟・グループホームを検討。入院後1週間程度でBPSDの傾向が見え始めた段階で精神科への相談を開始し、薬剤調整を検討する。非薬物的介入(日中活動性向上・夜間睡眠確保)を先行させる | 精神科・認知症専門医・地域包括支援センター |
| 感染症の保菌(MRSA等) | MRSA・ESBL保菌 | 保菌のみを理由とした拒否は不当。「標準予防策で対応可能・現在は非感染状態」であることを施設向けの説明文書にまとめて再打診する | 感染管理認定看護師・施設の感染担当者 |
| 費用が払えない | 月額費用の支払い困難 | 特養申込(優先入所・特例入所)・生活保護申請・補足給付・社会福祉法人軽減制度を確認する | MSW・市区町村窓口・福祉事務所 |
BPSDへの薬剤調整のタイミング:入院後1週間程度でBPSDの傾向が見え始めた段階で、精神科への相談を開始することが推奨されます。退院直前になって慌てて薬剤調整を行うよりも、入院早期から症状コントロールに取り組むことで、退院時により落ち着いた状態で施設へ移行できます。
医療依存度が高い患者の施設種別ごとの対応範囲
退院先を探す際、施設の種別によって対応できる医療処置の範囲が大きく異なります。医療依存度が高い患者の施設選びでは、施設種別を正しく絞り込むことが効率的な打診につながります。
| 施設種別 | 看護師配置 | 対応できる医療処置の傾向 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 入所者30人に1人以上(日中)。夜間はオンコール対応が一般的 | 日中の胃ろう・吸引・褥瘡処置に対応。夜間の高度な医療処置は困難なことが多い |
| 介護老人保健施設(老健) | 入所者100人に対し看護職員9人以上。夜間も配置あり | 吸引・インスリン・一部の点滴に対応。リハビリを中心に医療的管理も行う |
| 介護医療院(Ⅰ型) | 入所者6人に看護職員1人以上(100人規模で看護職員約17人)。医師配置あり | 人工呼吸器・ターミナルケア等の高度な医療依存度に対応。「身体合併症を有する認知症高齢者等」を対象として定義されている |
| 医療療養病床 | 看護・介護ともに手厚い配置 | 医療区分2・3の重症患者。透析・頻回吸引・中心静脈栄養に対応 |
| 有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅 | 施設により異なる(24時間看護配置の施設もあり) | 「住宅型」は訪問看護を外部から導入。処置の頻度・内容によって受け入れ可否が異なる |
| グループホーム | 介護職主体。看護師配置義務なし | 医療処置がほぼ不要な認知症高齢者向け。5〜9人の少人数単位で環境変化に弱い方のBPSD改善に有効なことがある |
透析患者の場合:送迎体制の有無が最大の焦点です。透析クリニックが併設・連携している施設や、シャント管理が可能な老健を優先して探してください。
経鼻経管栄養の場合:認知症を合併している患者では自己抜去のリスクが高く、断られやすい傾向があります。主治医と連携し、早期に胃ろう造設を検討することで受け入れ先が広がる場合があります。
感染症(薬剤耐性菌)を理由とした拒否への対応
MRSA・ESBLなどの薬剤耐性菌を保菌しているという理由で施設に断られるケースは、現場でも多く見られます。しかし、この対応には根拠があります。
厚生労働省の「高齢者介護施設における感染対策マニュアル(2019年3月改訂版)」および「介護現場における感染対策の手引き(第3版・令和5年9月)」では、薬剤耐性菌の保菌のみを理由としたサービス提供拒否を否定しており、標準予防策を徹底すれば通常のケアを提供できると明示されています。また、令和3年3月5日付厚労省老健局事務連絡においても、感染症の既往や保菌を理由とした受け入れ拒否は不当である旨が示されています。
注意:「保菌(菌が検出されている)」と「感染(熱・炎症などの症状がある)」は異なります。現在症状がない保菌状態であれば、標準予防策(手袋・手洗い等)を徹底することで通常の介護サービスを提供できます。退院前に除菌目的の抗菌薬投与を行うことは、さらなる耐性菌リスクを高めるため推奨されません。
対応策として、感染管理認定看護師と連携し、「標準予防策で対応可能であること」「現在は感染状態にないこと」を施設向けに書面でわかりやすく説明することが有効です。施設の担当者が上席に説明しやすくなる資料を提供するイメージで作成してください。
費用問題を解決するための制度活用
患者の経済状況が課題になる場合は、以下の公的制度の活用を検討してください。
- 特養の優先入所:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第7条第2項で、「介護の必要の程度及び家族等の状況を勘案し、サービスを受ける必要性が高いと認められる者を優先的に入所させるよう努めなければならない」と定められています。
- 特養の特例入所(要介護1・2):認知症による意思疎通困難・知的障害や精神障害による困難・家族からの深刻な虐待が疑われる・独居で家族支援が受けられず地域の介護サービスも不十分といった事情がある場合に、特例的に入所が認められます。
- 補足給付(特定入所者介護サービス費):市町村民税非課税世帯が対象。施設での食費・居住費を軽減できます。
- 社会福祉法人等による利用者負担軽減制度:要件を満たした場合、利用者負担が1/4(老齢福祉年金受給者は1/2)軽減されます。
- 生活保護:入院中に福祉事務所と連携し、退院時開始を前提とした保護申請の見通しをつけておくことで、保護受給を前提とした施設受け入れ交渉が可能になります。
補足:生活保護申請は退院後ではなく、入院中から福祉事務所へ相談を開始することが重要です。「退院時に開始」という流れを事前に整理しておくことで、施設側も受け入れの判断がしやすくなります。
ミニ事例|MRSA保菌・認知症・要介護4の女性のケース
80代女性。脳梗塞後遺症による身体機能低下・要介護4・認知症(中等度)・MRSA保菌という状況で、退院先を探すことになりました。
複数の介護施設に打診しましたが、「MRSA保菌者は受け入れが難しい」という理由でいずれも断られました。この時点で「どこも無理なのではないか」という声が病棟内でも出始めていました。
担当MSWが病院の感染管理認定看護師に相談し、「現在は感染状態にない」「標準予防策で対応可能」という内容を施設向けの説明文書として整理。この文書を添えて再打診を行いました。
並行して、「身体合併症を有する認知症高齢者等」を対象とする介護医療院と、認知症専門の老健にも相談を開始しました。
結果として、2施設目の認知症専門老健に受け入れてもらうことができました。施設の担当者からは、「感染状態でないことと対応方法が書面で示されていたので、施設内で説明しやすかった」というフィードバックをいただきました。
ポイント:施設の現場担当者が「上司や他のスタッフに説明できる根拠」を持てるかどうかが、受け入れ判断の分岐点になることがあります。MSWが情報を整理して「施設側が動きやすい形」で提供することが、打開策になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 施設に断られる主な理由は何ですか?
A. 施設に断られる理由は大きく「①医療処置の問題(気管切開・人工呼吸器・頻回吸引・透析など)」「②行動・リスクの問題(BPSD・感染症の保菌など)」「③費用の問題(月額費用の支払い困難・特養の順番待ちなど)」の3分類に整理できます。まずは断られた理由をこの3分類に当てはめ、それぞれに応じた突破口(施設種別の絞り込み・専門職連携・公的制度の活用)を選ぶことが、再アプローチの出発点になります。
Q2. MRSA保菌者は施設に入れませんか?
A. 薬剤耐性菌の保菌のみを理由とした受け入れ拒否は不当です。厚生労働省の「高齢者介護施設における感染対策マニュアル(2019年3月改訂版)」および「介護現場における感染対策の手引き(第3版・令和5年9月)」では、保菌のみを理由としたサービス提供拒否を明確に否定しており、標準予防策を徹底すれば通常のケアを提供できるとされています。感染管理認定看護師と連携し、「標準予防策で対応可能・現在は非感染状態」であることを書面で示して再打診するのが有効です。
Q3. 特別養護老人ホームへの優先入所は申請できますか?
A. 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第7条第2項に基づき、介護の必要の程度や家族等の状況を勘案して、サービスを受ける必要性が高いと認められる方は優先的に入所できる仕組みがあります。また、要介護1・2の方でも、認知症による意思疎通困難・知的障害や精神障害・深刻な虐待が疑われる・独居で家族支援が受けられないなどの事情があれば、特例入所の対象となります。市区町村の窓口やMSWに相談してください。
Q4. 認知症でBPSDが強い患者の受け入れ先はどこですか?
A. BPSDが強い患者の受け入れ先としては、認知症専門棟を持つ介護老人保健施設、グループホーム(5〜9人の少人数ケア)、介護医療院Ⅰ型(身体合併症を有する認知症高齢者等を対象として定義)が有力な選択肢です。入院後1週間程度でBPSDの傾向が見え始めた段階で精神科への相談を開始し、薬剤調整と非薬物的介入(日中活動性向上・夜間睡眠確保)を並行して進めることで、退院時により落ち着いた状態で施設へ移行でき、受け入れ先の選択肢も広がります。
まとめ|断られた先に突破口がある
退院支援において、医療依存度が高い患者の施設への受け入れ交渉や、退院先が見つからない状況での対策は、正しい順序で進めることで道が開けます。
断られたときに大切なのは以下の3ステップです。
- 断られた理由を施設に確認する
- 理由を「医療処置・行動リスク・費用」の3分類に当てはめる
- 分類に応じた対応策(施設種別の絞り込み・専門職連携・制度活用)を実行する
一人で抱え込まず、感染管理認定看護師・精神科リエゾン・地域包括支援センター・福祉事務所など、専門職や地域のリソースを積極的に活用してください。
退院支援・受け入れ先探しでお困りの場合や、施設向けの説明文書の作成・マニュアル整備についてお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。現場の状況に合わせたサポートをご提案いたします。
関連記事
参考文献
- 厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版」(2019年3月)
- 厚生労働省老健局「介護現場における感染対策の手引き 第3版」(令和5年9月)
- 厚生労働省老健局「新型コロナウイルス感染症から回復した者等の介護施設等での受け入れについて」(令和3年3月5日事務連絡)※退院患者の介護施設受入に関する通知番号は要確認
- 厚生労働省老健局「新型コロナウイルス感染症から回復した者等の介護施設等での受け入れについて(再周知)」(令和4年6月7日事務連絡)※通知番号は要確認
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)
- 厚生労働省「特別養護老人ホームへの入所に関する指針」(厚労省老健局通知・要介護1・2の特例入所関連)※通知番号は要確認
- 厚生労働省「介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」(平成30年厚生労働省令第5号)
- 厚生労働省「社会福祉法人等による利用者負担軽減制度事業の実施について」(平成12年社援第1628号・老発第696号 等)※通知番号は要確認
- 厚生労働省「特定入所者介護サービス費(補足給付)に関するQ&A」(令和3年8月)※発出日・通知番号は要確認