「議事録やマニュアルの下書きに生成AIを使いたいが、患者情報を扱う職場で使ってよいのか分からない」——医療機関・介護施設からよくいただく相談です。国も、介護分野の計画書・議事録の原案作成への生成AI活用を業務効率化に資すると位置づけ始めました(令和7年4月・2040年に向けたサービス提供体制等のあり方 中間とりまとめ)。本記事では、「下書きはAI・確定は人」を原則に、書類業務での安全な使いどころ、守るべき絶対線(個人情報)、院内ルールの作り方を、公的資料を原文確認のうえで整理します。
対象施設:病院・診療所・介護施設(管理者・事務部門向け)/情報時点:令和8年7月12日
本記事の範囲(必ずお読みください):
- 本記事が扱うのは書類・事務業務の「下書き」への活用です。診断・治療方針の判断への利用(診断支援AI・プログラム医療機器等)は本記事の対象外です。診療に関する最終判断は常に医師が行います
- 特定のAIツール・製品の推奨や比較は行いません。ツールの選定は変化が速く、契約条件(入力データの取扱い)によって安全性が全く異なるためです
- 本記事は法的助言ではありません。個人情報の取扱いの個別判断は、必要に応じて専門家にご相談ください
この記事の3行まとめ
- 国は介護分野の計画書・議事録の原案作成への生成AI活用を「業務効率化に資する」と明記(ただし実証を通じて留意点を明らかにする段階)
- 絶対線はひとつ——患者・利用者の個人情報(要配慮個人情報)を一般の生成AIに入力しない
- 始める前に利用規程を作る。書式47(規程ひな形Word+導入チェックリストExcel)を無料提供
1. 国の方針はどこまで来ているか(2026年7月時点)
| 資料(時点) | 生成AIに関する内容 |
|---|---|
| 「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会 中間とりまとめ(厚労省・令和7年4月) | 「介護事業者において様々作成する文書、例えば計画書やサービス担当者会議等の議事録を生成AIの技術を活用して、その原案を作成することも業務効率化に資する」と明記。同時に「AIの信頼性やセキュリティ等の問題があるが、実証を通じて効果や利用における留意点を明らかにし」と、検証段階であることも示されています。AIによるケアプランへの言及もあり |
| 「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(厚労省・令和6年度改訂版) | 介護現場の業務改善・テクノロジー活用の進め方を共通冊子+サービス別冊子で整理。生成AIに特化した記述はまだありませんが、「業務の切り分け→テクノロジー導入→定着」という本記事の導入ステップの土台になる考え方です |
| 「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン 第2版」(医療AIプラットフォーム技術研究組合〔HAIP〕・2025年) | 民間団体によるガイドライン。組織としての利用ルール整備、ガイドラインに基づく研修の実施と受講確認、著作物に類似する生成につながるプロンプトを入力しないこと等を推奨。診断結果等の案を生成AIが作成しても医師自身が診察して最終判断し、医師が患者へ説明することを組織ルールとして規定するよう例示しています |
| 「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(個人情報保護委員会・令和5年6月2日) | 本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法違反の可能性があると注意喚起(§2参照) |
要するに——「書類の下書き」への活用は国の方針とも整合する一方、個人情報の扱いを誤ると法令違反になり得る。この2つを押さえるのが出発点です。
2. 絶対線:患者・利用者の個人情報を入力しない
個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)のポイントは次のとおりです。
- 個人情報取扱事業者(医療機関・介護施設はすべて該当)が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的(例:AIの学習)で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反する可能性があります
- 病歴、診療・調剤の事実などは要配慮個人情報にあたり、取得自体に原則として本人の明示的な同意が必要な、最も慎重な取扱いを要する情報です
入力禁止の目安(規程の別表・掲示用に書式47へ収録):氏名・住所・生年月日・顔写真/病名・病歴・検査値・処方内容/診療録・看護記録・ケア記録の本文/保険者番号・被保険者証記号番号/画像(レセプト・計画書・お薬手帳の写真を含む)/職員の人事・健康情報。
「名前を伏せたから大丈夫」は危険です。年齢・地域・疾患の組合せで個人が特定され得るほか、記録本文には固有の情報が残りがちです。迷ったら入力しないを合言葉にしてください。
介護ソフト・電子カルテに組み込まれたAI機能は別枠で考える:ベンダーが提供する記録ソフト内蔵のAI機能(音声入力・記録要約・ケアプラン原案等)は、契約の中でデータの取扱いが定められた「閉じた環境」です。一般の生成AIチャットに利用者情報を貼り付けるのとは前提が異なります。内蔵AI機能の利用可否は、契約・規約でデータが学習等に二次利用されないかをベンダーに確認したうえで判断してください(この確認自体を規程に組み込むのが書式47の設計です)。
3. 業務別活用マップ——「下書きはAI・確定は人」
個人情報を入力せずにできる業務は、実はたくさんあります。AIには構成と文案(下書き)だけを作らせ、事実確認と確定は必ず人が行う——HAIPガイドラインが診療場面について「医師自身が最終判断」を組織ルール化するよう例示しているのと同じ構図を、すべての業務に適用します。
| 業務 | AIにさせる下書き | 人が確定すること | 注意 |
|---|---|---|---|
| 委員会の議事録(感染対策・褥瘡・事故防止等) | 要点メモからの議事録原案・体裁整え | 決定事項・出席者・日付の確認 | 患者・利用者の事例は入力しない(確定後に手元で追記する運用) |
| マニュアル・手順書の改訂 | 旧版の構成整理・改訂文案・チェックリスト化 | 現場実態との突合・責任者承認 | 施設固有の体制情報は最小限に |
| 研修資料・院内掲示・お知らせ文 | たたき台の作成・平易な言い換え | 制度の数値・要件を原文(告示・通知)で照合 | 点数・単位数・期限はAIに書かせない(必ず原文転記) |
| ケアプラン・計画書の原案(介護) | 中間とりまとめが実証を通じて促進する方向性を明示した領域 | ケアマネジャー・多職種によるアセスメントと最終判断 | 利用者情報を使う場合は介護ソフト内蔵AI等の閉じた環境が前提(一般チャットAIに入力しない) |
| 記録・報告書の下ごしらえ | 文章の要約・誤字修正・書式の整形 | 内容の正確性・提出値の確認 | 個人が特定できる記録本文は入力しない |
| 制度の調べ物の起点(加算要件など) | 論点の洗い出し・関連資料の当たり付け | 必ず告示・通知・疑義解釈の原文で裏取り | AIの回答は誤ることがあります。当サイトでも、検索AIが誤った制度情報を示す事例を実際に確認しています |
なお、介護分野の記録・アセスメント業務はLIFE(科学的介護情報システム)へのデータ提出や科学的介護推進体制加算とも関わります。関連する加算の要件・様式はLIFE(科学的介護)関連加算の解説ページにまとめていますので、あわせてご参照ください。
4. 導入5ステップ
- 小さく試す——個人情報を含まない業務を1つ選ぶ(おすすめは委員会議事録かマニュアル改訂)。担当者を決めて1〜2か月試行し、かかった時間の変化をメモする
- 利用規程を作る——「使ってよい業務」「入力禁止情報」「人による最終確認」を文書化(書式47のひな形を自院用に修正)。規程がないまま職員が個人アカウントで使い始める「野良利用」が最大のリスクです
- 研修する——便益とリスク(誤り・個人情報・著作権)をセットで周知。HAIPガイドラインも研修の実施と受講確認を推奨しています。入力禁止情報リスト(書式47収録)を職場に掲示
- 運用する——相談・報告窓口を決める(「入力してしまった」を報告しやすくすることが重要)。利用してよいサービスを施設として指定する
- 年1回見直す——国のガイドライン・注意喚起は更新が続きます。規程の見直し日を決めて、版数・年度を確認する
5. 無料ダウンロード|書式47(利用規程ひな形+導入チェックリスト)
📥 書式47:生成AI利用規程ひな形・導入チェックリスト
- Word版——「生成AI利用規程 ひな形」(目的・適用範囲・利用の原則〔下書きはAI・確定は人〕・利用できる業務/できない業務・入力禁止情報の別表・研修・報告・見直しの12条構成。自院に合わせて編集)
- Excel版——シート1「導入チェックリスト」(5ステップ×14項目)/シート2「入力禁止情報リスト」(職場掲示用)
6. 補助金・支援制度
- 介護分野では、都道府県を通じた介護テクノロジー導入支援事業(介護ロボット・ICT等の導入補助)が実施されています。対象機器・補助率・受付時期は年度と都道府県により異なるため、最新の要綱は自都道府県の案内でご確認ください(生成AI単体が対象になるかは要綱次第です。介護記録ソフト等の導入と一体で検討するのが現実的です)
- 取組の設計には厚労省「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(令和6年度改訂版)が土台になります。業務の切り分け(ムリ・ムダの洗い出し)を先に行うと、AIに任せる業務の選定(§4ステップ1)がスムーズです
7. 当サイトの生成AI活用について(開示)
当サイト「医療・介護マニュアルサポート」の記事・書式も、生成AIの支援を受けて作成しています。そのうえで、点数・要件・様式はすべて厚労省の告示・通知・様式原本と照合し、人が最終確認してから公開する運用を徹底しています。本記事で推奨した「下書きはAI・確定は人」は、私たち自身の運用そのものです。生成AI利用規程の施設カスタマイズや院内研修のご相談は料金・サービス案内からどうぞ。
FAQ|よくある質問
Q1. 患者・利用者の情報を入力して要約させてもよいですか?
一般の生成AIサービスには入力しないでください。本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法違反の可能性があると個人情報保護委員会が注意喚起しています(令和5年6月2日)。病歴等は要配慮個人情報にあたり、特に慎重な取扱いが必要です。利用者情報を扱うAI機能は、データの取扱いが契約で定められた介護ソフト・電子カルテ内蔵のものに限り、規約確認のうえで検討してください。
Q2. 職員が個人のスマホで勝手に使うのを防ぐには?
禁止だけでは「隠れて使う」状態になりがちです。①利用規程で「使ってよい業務・サービス」と「入力禁止情報」を明示し、②入力禁止情報リストを職場に掲示し、③研修で理由(法令違反・情報漏えいのリスク)とセットで周知し、④誤って入力した場合の報告窓口を作る——の4点セットが現実的です。書式47のひな形とチェックリストをご活用ください。
Q3. 診断や治療方針の検討に生成AIを使ってよいですか?
本記事の対象外です。診断・治療への利用は、プログラム医療機器の規制や医師法との関係を含む別の論点であり、書類業務とは前提が異なります。HAIPガイドラインも、診断結果等の案を生成AIが作成する場面について、医師自身が診察して最終判断し医師が患者へ説明することを組織ルールとして規定するよう例示しています。
Q4. 導入に補助金は使えますか?
介護分野では都道府県の介護テクノロジー導入支援事業(介護ロボット・ICT導入補助)が実施されています。生成AI単体が対象になるかは年度・都道府県の要綱によるため、介護記録ソフト等の導入と一体で、自都道府県の最新の案内をご確認ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する検討会 中間とりまとめ」(令和7年4月)
- 厚生労働省「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(令和6年度改訂版)・介護分野における生産性向上ポータル
- 医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン 第2版」(2025年7月)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)
※ 本記事は令和8年7月12日時点の公表資料に基づく整理です。特定のAIツール・製品の推奨は行っていません。個人情報の取扱いの個別判断は専門家にご相談ください。各ガイドライン・補助金の最新版は必ず原典でご確認ください。