退院支援の現場では、施設に断られ続ける、家族が同意しない、期限が迫るなど、教科書どおりには解決しない困難ケースが日常的に発生します。本記事では、退院支援の事例として現場で起きうる5つの困難ケースを取り上げ、それぞれの退院支援 解決事例(どう動いたか・どう解決したか)を具体的に解説します。退院調整 成功事例から学べる教訓をケースごとにまとめました。
注記:この記事に登場するケースはすべて、現場での事例をもとに匿名化・一般化したフィクション(合成事例)です。個人・施設を特定する情報は含まれていません。
退院支援の事例から学ぶ|困難ケース5選を現場目線で解説
「何度施設に問い合わせても断られてしまう」「家族がどうしても施設入居に同意しない」「退院まであと3日しかない」――退院支援・退院調整を担う医療ソーシャルワーカー(MSW)や看護師なら、こうした困難ケースに一度は直面したことがあるのではないでしょうか。
困難ケースに向き合うとき、最も助けになるのは他の現場の実践例です。本記事では、医療依存度の高さ・認知症によるBPSD・期限の切迫・家族の拒否といった5つの典型的な困難ケースを取り上げ、それぞれの退院調整 成功事例とそのプロセスを丁寧に解説します。
5ケース概要サマリー|退院支援 解決事例の全体像
| ケース | 患者の特徴 | 困難の内容 | 解決のカギ |
|---|---|---|---|
| ケース1 | 80歳代・人工呼吸器使用 | 複数施設に断られ退院期限が迫る | 介護医療院への打診に絞り込む |
| ケース2 | 70歳代・認知症+経管栄養(胃ろう) | BPSDがあり全施設に断られる | 断られた理由を確認し看護体制の厚い施設に変更 |
| ケース3 | 65歳代・退院期限3日前 | 調整に時間がなく手詰まり状態 | 民間の施設紹介サービスを活用し3日で候補確保 |
| ケース4 | 75歳代・気管切開 | 施設スタッフが処置対応に不安を示し受け入れ拒否 | 病院スタッフによる技術指導の実施を提案 |
| ケース5 | 85歳代・本人は施設移行を希望 | 家族が施設入居を強く拒否し調整が進まない | 家族の本音の不安を聞き出し面会環境・看取り対応を説明 |
ケース1|人工呼吸器使用・施設探し 事例|介護医療院への打診で解決
状況
80歳代男性。肺炎の重症化により人工呼吸器管理が必要な状態で急性期病院に入院。病状は安定したものの、呼吸器を継続使用するため一般的な特別養護老人ホームや有料老人ホームへの転院は困難でした。家族は遠方に住んでおり、自宅での医療管理は実質的に不可能な状況でした。
課題
退院支援カンファレンスを実施した段階では、退院まで21日の猶予があるはずでした。ところが人工呼吸器の常時管理が必要という条件を提示すると、問い合わせた施設3か所すべてから「医療体制が整っていない」として断りを受けました。残り期限が14日を切ったところで、担当MSWは手詰まり感を感じ始めます。
対応
断られた3施設に対し、MSWはあらためて「何が受け入れの障壁になったか」を電話で確認しました。共通していたのは「24時間対応できる看護師がいない」という点でした。この情報をもとに、看護師が常駐し医療処置に対応できる「介護医療院」に絞り込んで打診先を変更しました。同時に、患者の生活上の希望(「できれば個室がよい」「リハビリを続けたい」)を整理し、施設側に具体的なニーズとして伝えました。
結果
介護医療院2か所に問い合わせたところ、1か所から「条件を確認したうえで受け入れ可能」との回答を得ました。退院7日前に受け入れが内定し、書類準備と引き継ぎを経て、予定期限内に退院・入居が実現しました。
教訓
ポイント:施設種別を固定せず、患者の医療ニーズに対応できる「施設の種類」から探し直すことが突破口になります。断られた段階で「理由の確認」と「施設種別の見直し」をセットで行いましょう。
D-21:退院支援カンファレンス実施・施設打診開始
D-18:3施設から断りを受ける
D-14:断られた理由を確認・介護医療院に絞り込む
D-10:介護医療院2か所へ問い合わせ・見学調整
D-7 :受け入れ内定
D-3 :書類準備・引き継ぎ
D-0 :退院・入居
ケース2|認知症+経管栄養の退院調整 成功事例|看護体制の厚い施設へ変更
状況
70歳代女性。脳梗塞後遺症による重度の認知症があり、経管栄養(胃ろう)を使用していました。認知症の周辺症状(BPSD)として、夜間の興奮・大声・徘徊様の行動が見られる状況でした。家族は在宅介護を希望していましたが、介護者の健康問題から在宅復帰は現実的でないと判断され、施設への転院を目指していました。
課題
特別養護老人ホームや介護老人保健施設など5施設に打診しましたが、すべてから断りを受けました。断りの理由を最初は確認していなかったため、「どんな条件なら受け入れてもらえるか」が分からず、次の手を打てない状況が続きました。
対応
担当MSWが断った施設に折り返し連絡し、「差し支えなければ断られた主な理由をお聞きしてもよいですか」と丁寧に確認しました。回答は主に2点でした。①胃ろう管理を行える研修修了介護職員がいない、②夜間のBPSD対応に人手が足りない、というものでした。この情報をもとに、「胃ろう管理研修を修了した介護職員が在籍しているか」「夜間看護師が常駐しているか」を絞り込み条件として設定し直しました。地域の地域連携室や行政の相談窓口にも協力を求め、条件に合致する施設を複数リストアップし、同時に3施設へ打診しました。
結果
夜間看護師が在籍する特別養護老人ホームから「受け入れ可能」との回答を得ました。胃ろう管理については、病院の看護師から入居前に施設スタッフへ手技の確認を行う機会を設けたことで、施設側の安心感につながりました。
教訓
ポイント:断られた時点で「なぜ断ったか」を確認・記録することが次の一手を決める判断材料になります。断られた理由が「スタッフのスキル不足」なら、研修修了者の有無を条件として再絞り込みできます。
D-28:退院支援カンファレンス実施・5施設に打診開始
D-21:5施設すべてから断りを受ける
D-19:断られた理由を各施設に電話確認・記録
D-17:絞り込み条件を再設定・地域連携室に協力依頼
D-14:新たに3施設へ同時打診
D-10:夜間看護師常駐の特養から内定連絡
D-5 :入居前の手技確認・書類準備
D-0 :退院・入居
ケース3|退院期限3日前の施設探し 事例|民間紹介サービスで3日で候補確保
状況
65歳代男性。脳卒中による右半身麻痺があり、ADLは全介助に近い状態でした。独居で身寄りが少なく、退院後の生活環境の整備が遅れていました。担当MSWが異動した直後に引き継ぎを受けたケースで、退院期限まで残り3日という緊急状態でした。
課題
施設探しの進捗がほとんどなく、書類も整っていない状況からのスタートでした。通常の施設打診では「見学→書類提出→審査→内定」という流れに最低でも1〜2週間かかりますが、残り3日ではそのプロセスが取れません。担当者は「間に合わない」と感じながらも、できる手を探す状況でした。
対応
通常の施設打診に加えて、民間の老人ホーム紹介会社(施設紹介サービス)への依頼を決断しました。紹介会社の担当者は複数の施設と既に連携関係があり、患者の状態・ADL・希望条件を伝えると当日中に候補施設を3か所提案してもらえました。提案の過程でこの患者の隠れたニーズ(「激しいリハビリではなく、自分のペースで生活したい」)が明確になり、生活型の介護老人保健施設が適切と判断されました。書類は病院側が優先的に準備し、並行して施設との電話確認を進めました。
結果
民間紹介会社に依頼した翌日に候補2か所から「書類確認のうえで受け入れ可能」との回答を得ました。退院期限当日に転院が実現し、退院延期を回避できました。
教訓
ポイント:時間がないとき、民間の施設紹介サービスは有力な外部リソースです。紹介会社は多数の施設と連携しており、急ぎの案件に慣れているケースもあります。「外部に頼る」という選択肢を早めに検討することが重要です。施設探しを外部に依頼する方法については、別記事(記事21)で詳しく解説しています。
D-3:引き継ぎ受領・現状把握・民間紹介会社へ依頼
D-2:紹介会社から候補3施設の提案を受領・候補2施設から仮内定
D-1:書類優先準備・施設との最終確認
D-0:退院・転院(退院延期なし)
ケース4|気管切開の退院支援 解決事例|病院スタッフによる技術指導で解決
状況
75歳代男性。誤嚥性肺炎の重症化により気管切開を行い、気管カニューレを留置したまま療養を継続している状況でした。喀痰吸引が必要で、病院内では看護師が定期的に実施していましたが、退院後は施設または在宅での対応が必要でした。家族の介護力は限定的で、施設への転院が現実的なプランでした。
課題
打診した施設2か所から「喀痰吸引・カニューレ管理の経験があるスタッフがいない」「万一のトラブルに対応できる自信がない」という理由で断りを受けました。施設側の断りの背景には、技術への不安と「何かあったときの責任」への恐れがあることが確認されました。
対応
担当MSWは主治医・病棟看護師と相談し、「入居前に病院の看護師が施設スタッフに対して喀痰吸引・カニューレ管理の技術指導を行う」という提案を施設側に提示しました。これにより「技術が不安」という断りの理由に直接対処できました。また、「退院後1か月以内であれば病院看護師が訪問指導を行える仕組みがある」(退院後訪問指導料:580点・退院後1か月以内・5回を限度として算定可)ことも合わせて伝え、施設側の不安を軽減しました。
結果
技術指導の実施を条件として、施設から「受け入れを検討する」と回答が変わりました。入居前日に病院看護師が施設を訪問し、施設スタッフ3名に対して手技の確認と緊急時対応の説明を行いました。施設スタッフの安心感が高まり、スムーズに入居が実現しました。
教訓
ポイント:施設が断る理由が「技術・スキルへの不安」の場合、病院側からの技術サポートを提案することが突破口になります。「断られた=終わり」ではなく、「何があれば受け入れられるか」を施設とともに考えることが大切です。
D-21:退院支援カンファレンス実施・2施設に打診
D-17:2施設から「技術面が不安」として断りを受ける
D-15:断られた理由を確認・主治医・看護師と対策を協議
D-12:施設へ「技術指導実施」の提案を提示
D-10:施設から「受け入れ検討」の回答を受領・内定へ
D-3 :書類準備
D-1 :病院看護師が施設へ訪問・技術指導実施
D-0 :退院・入居
ケース5|家族が施設入居を拒否する困難ケース|本音の不安を聞き出し合意を得る
状況
85歳代女性。大腿骨骨折後のリハビリが終了し、自宅への退院は困難な状況でした。本人は「施設に移りたい」と穏やかに意思表示していましたが、家族(娘2名)が「施設に預けることへの罪悪感」「母を施設に入れるのは親不孝」という気持ちから、施設への入居に強く反対していました。
課題
施設の選定自体は進んでいるものの、家族の同意が得られないために調整が前に進まない状況でした。MSWが「施設のほうが安全で良いケアが受けられる」と説明しても、家族は「そういう問題じゃない」と感情的に反発するという繰り返しになっていました。
対応
担当MSWは説明・説得をいったん止め、「お気持ちをもう少し聞かせてください」と傾聴に切り替えました。家族の話をじっくり聞くと、表面的な「拒否」の背後に具体的な不安があることが分かりました。娘の一人は「施設に入ると家族が会いに行けなくなるのでは」と心配しており、もう一人は「施設で最期を迎えさせることになるのでは」と看取りへの不安を持っていました。
これらの本音の不安を確認したうえで、MSWは候補施設の「面会時間・個室での家族との時間」「看取り対応の実績と方針」を具体的に説明しました。また「施設に移ることは、お母様とご家族の両方の生活の質を守るための前向きな選択です。これからも家族としての関わり方は変わらない」というメッセージを丁寧に伝えました。病棟看護師にも協力を依頼し、中立的な立場から家族それぞれの思いを聴取する面談を設けました。
結果
面談後、娘2名から「施設のことをもう少し知りたい」という前向きな変化が見られました。施設見学を行ったうえで、「ここなら安心して任せられる」と合意が得られ、予定より1週間の延長はありましたが、無事に施設入居が実現しました。
教訓
ポイント:家族の「拒否」は感情の表れです。表面的な拒否に正面から反論するのではなく、その背後にある本音の不安を聞き出すことが先決です。「何が不安ですか?」と尋ね、具体的な不安に具体的な情報で応えることが合意への近道です。
D-21:退院支援カンファレンス実施・施設の選定開始
D-18:家族へ施設入居を提案→強い拒否
D-15:説得から傾聴にアプローチを切り替え・家族面談の設定
D-12:家族面談実施・本音の不安(面会・看取り)を確認
D-10:候補施設の面会環境・看取り方針を家族に説明
D-7 :施設見学を実施
D-0 :家族から合意取得(退院は7日延長となったが実現)
D+7:入居・退院
5ケースの共通点と教訓まとめ|退院調整 成功事例から得られる型
5つの退院支援 解決事例を振り返ると、いくつかの共通した教訓が浮かび上がります。困難ケースは施設ごと・家族ごとに状況が異なりますが、解決に至るプロセスには再現性のある「型」があります。
| 共通する教訓 | 具体的な行動 |
|---|---|
| 早期に動く | 入院後すぐに退院支援のスクリーニングを実施する(入退院支援加算1では入院後3日以内、加算2では7日以内が要件) |
| 断られた理由を確認する | 「なぜ断ったか」を必ず確認し記録する。理由が分かれば次のアプローチが変わる |
| 複数施設に同時打診する | 1か所ずつ順番に打診するのではなく、3〜5か所に同時打診して時間を節約する |
| 外部リソースを積極的に使う | 民間紹介サービス・地域連携室・行政窓口を状況に応じて使い分ける |
| 家族の本音を聞き出す | 表面的な拒否に反論せず、背後にある具体的な不安を傾聴によって確認する |
補足:退院先が見つからない患者への対応全般については別記事(記事12)で、施設に断られやすい患者の特徴については別記事(記事14)で、医療依存度が高い患者の施設探し 事例については別記事(記事17)で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
退院支援担当者のためのセルフチェックリスト
困難ケースに直面したとき、以下の項目を確認してみてください。
- ☐ 退院支援スクリーニングを早期に実施したか(入退院支援加算1では入院後3日以内、加算2では7日以内が要件)
- ☐ 退院困難要因(医療処置の必要性・ADL低下・要介護認定未申請等)を整理したか
- ☐ 患者の価値観・生活上の希望を確認・記録したか
- ☐ 退院日から逆算して施設打診・書類準備のスケジュールを立てたか
- ☐ 断られた施設に対して「断りの理由」を確認したか
- ☐ 施設種別を固定せず、患者の医療ニーズに合った種別を再検討したか
- ☐ 3か所以上の施設に同時打診しているか
- ☐ 民間紹介サービス・地域連携室・行政窓口への相談を検討したか
- ☐ 家族の本音の不安(看取り・面会・罪悪感等)を傾聴で確認したか
- ☐ 病院スタッフによる技術指導・訪問支援を施設に提案できるか確認したか
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参考文献
- 厚生労働省「入退院支援加算の施設基準等に関する通知」令和6年3月28日保医発0328第1号
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について(入退院支援加算関係)」令和6年3月
- 厚生労働省「退院困難な要因に関する通知」(入院基本料等の注に規定する入退院支援の実施に係る診療報酬上の取扱いについて)
- 厚生労働省「退院後訪問指導料の算定要件に関する通知」保険局医療課(令和6年度改定対応)
- 厚生労働省「退院時共同指導料の算定要件について」令和6年度診療報酬改定告示
