看護手順書の作り方に悩む看護師長・教育担当者へ向け、ゼロから手順書を整備するための方法を解説します。マニュアル・業務記録との違いの整理から、3要素構成、5ステップ作成プロセス、与薬・吸引・採血のすぐ使える看護手順書テンプレートまで、現場で実践できる内容をまとめています。
看護手順書の作り方:「どこから始めれば良いのかわからない」で止まっていませんか?
手順書を整備しなければならないと感じているのに、なかなか着手できない。そんな状況が続いていませんか?
「書こうとは思っているが、どのレベルで書けばいいのかがわからない」「スタッフに任せると、人によって書き方がバラバラになる」——こうした声は、病棟の看護師長・主任・教育担当者から非常によく聞かれます。
手順書の整備は、医療安全やスタッフ教育の根幹にかかわる重要な業務です。この記事では、看護手順書の作り方を定義・構造・作成手順の観点から整理し、現場でそのまま使えるテンプレートとチェックリストを提供します。なお、マニュアル整備が監査でどう確認されるかについては厚生局・保健所の立ち入り検査で指摘されるマニュアルの共通点もあわせてご覧ください。
現場でよくある3つの課題
- 何をどのレベルで書けばいいかわからない
「細かく書きすぎると長くなるし、大まかだと役に立たない」という迷いが生じやすい。 - スタッフによって書式・粒度がバラバラになる
テンプレートがなければ、書く人によって構成も記載量も異なり、統一されたマニュアルにならない。 - マニュアル・手順書・業務記録の違いが曖昧
「マニュアルと手順書は同じもの」と思っていると、役割の異なる文書が混在し、管理も活用もしにくくなる。
なぜ看護手順書の整備が進まないのか
多くの場合、原因は2つあります。
1つ目は、「手順書」の定義と役割が明確になっていないこと。手順書・マニュアル・業務記録は、それぞれ異なる役割を持つ文書ですが、混同されたまま作成が始まると、何を書くべきかが曖昧になります。
2つ目は、作成のゴールイメージが管理職とスタッフで共有されていないこと。「誰が読んで、何ができるようになる文書か」が共有されていなければ、書き手によって品質がバラつきます。
まず、3種類の文書の関係を整理することが、手順書整備の第一歩です。
マニュアル(大枠の方針・理念)
└ 手順書(具体的な手順・手技)
└ 業務記録(実施の記録)
マニュアル :「なぜ・何を」(方針・基準)
手順書 :「どうやって」(具体的な手順・ステップ)
業務記録 :「やった記録」(実施日・実施者・内容)
医療法施行規則第1条の11第2項第2号ロは、「医薬品の安全使用のための業務に関する手順書の作成及び当該手順書に基づく業務の実施」を義務として定めています。手順書の整備は努力義務ではなく、法的に求められる業務です。マニュアル整備の全体的な進め方については医療マニュアル作成が進まない3つの原因と解決方法も参考になります。
2026年4月より、全病院・有床診療所・助産所に「医療安全管理者」の配置が義務化されました。医療安全管理者の業務には手順書の整備・管理が含まれます。体制整備のタイミングとして、今が手順書を見直す好機です。
看護手順書の作り方・解決策:3要素で構造化する
手順書の3つの構成要素(V-2)
どの業務の手順書であっても、以下の3要素を軸に構成することで、読み手が迷わず実施できる文書になります。
| 構成要素 | 内容 | 記載例(与薬の場合) |
|---|---|---|
| 目的 | この手順書で何を達成するか | 誤薬・過小・過量投与を防ぎ、安全に薬剤を投与する |
| 手順 | 誰でも同じ結果になる具体的なステップ | 1. 処方箋確認 2. 薬剤確認(6R) 3. 患者確認 4. 投与 5. 記録 |
| 確認ポイント | ミスが起きやすい箇所・完了の基準 | □ 患者名一致 □ 薬剤名一致 □ 投与量一致 □ 投与経路一致 |
「適宜吸引する」「必要に応じて確認する」のような記述は、実際の行動の基準が人によって異なります。「SpO2が90%を下回った場合、または呼吸副雑音が聴取された場合に吸引する」のように、条件と行動を具体的に記述することが重要です。
看護手順書作成の5ステップ(V-3)
-
STEP 1:対象業務を選ぶ
新人が迷いやすい業務・インシデント発生件数が多い業務から優先して取り組みます。日本医療機能評価機構が収集した5,928事例では「処方・与薬」が最も多い発生場面となっており、与薬手順書は最優先で整備すべき対象です。 -
STEP 2:現場で実際の手順を確認する
ベテランスタッフに「実際にやってもらいながら」手順を書き取ります。頭の中で考えた手順と、実際の動作には乖離があることが多いです。 -
STEP 3:3要素に整理する
書き取った手順を「目的・手順・確認ポイント」のテンプレートに当てはめて整理します。次のセクションのテンプレートをそのまま使用できます。 -
STEP 4:複数のスタッフでレビューする
新人スタッフが手順書だけを読んで実施できるか確認します。「わかりにくい」と感じた箇所を書き手に伝えてもらい、修正します。 -
STEP 5:承認・保管・周知する
管理職の確認と承認を得たうえで、保管場所を統一し、スタッフ全員に周知します。周知した記録(確認サイン等)も残しておきましょう。
すぐ使える看護手順書テンプレート:与薬・吸引・採血(V-4)
テンプレート 1:与薬手順書
【看護手順書】経口与薬
作成日: 年 月 日 最終更新日: 年 月 日
作成者: 承認者(師長等):
改訂履歴:(版数・改訂日・改訂内容・改訂者を記載)
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■ 目的
誤薬・過小・過量投与を防ぎ、患者に安全・確実に薬剤を投与する。
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■ 対象
経口投与が可能な入院・外来患者。
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■ 必要物品
□ 処方箋(または指示書)
□ 薬剤(薬袋・PTPシート・粉薬包等)
□ 水(または服薬ゼリー)
□ 与薬記録用紙(または電子カルテ)
□ 手指消毒剤
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■ 手順
【準備】
1. 手指消毒を行う。
2. 処方箋を取り出し、患者名・薬剤名・用量・用法・投与時刻を確認する。
3. 保管場所から該当患者の薬袋を取り出す。
→ このとき6Rの確認(1回目)を行う。
【6Rの確認内容】
Right Patient(正しい患者):フルネーム・生年月日・ID番号
Right Drug(正しい薬) :薬剤名・製造会社
Right Purpose(正しい目的):病態と薬効の整合性
Right Dose(正しい用量) :単位(mg/μg/mL)と計算値
Right Route(正しい用法) :投与経路(経口・舌下・貼付等)
Right Time(正しい時間) :投与時刻・間隔・曜日
4. 薬袋から薬を取り出す。
→ このとき6Rの確認(2回目)を行う。
5. 患者のもとへ行き、患者にフルネームで名乗ってもらう(またはリストバンドを確認する)。
→ このとき6Rの確認(3回目)を行う。
6. 薬を患者の手に渡し、内服を確認する。
(自己内服が難しい場合は口腔内への確実な投与を確認する)
7. 内服後、口腔内に薬が残っていないことを確認する(必要時)。
8. 薬袋を保管場所に戻す。
【記録】
9. 与薬実施を電子カルテ(または与薬記録用紙)に記録する。
記録内容:実施日時・薬剤名・用量・投与経路・確認者名・特記事項
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■ 確認ポイント(ダブルチェック対象)
□ 患者氏名が処方箋と一致している
□ 薬剤名が処方箋と一致している
□ 用量が処方箋と一致している
□ 投与経路が正しい
□ 投与時刻が適切である
□ アレルギー歴・禁忌がないことを確認した
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■ 注意事項・禁忌
・複数患者の薬を同時に準備しない(混同防止)
・疑義がある場合は、必ず処方医・薬剤師に確認してから実施する
・内服拒否・嚥下困難の場合は与薬を中止し、医師に報告する
テンプレート 2:口腔・鼻腔内吸引手順書
【看護手順書】口腔・鼻腔内吸引
作成日: 年 月 日 最終更新日: 年 月 日
作成者: 承認者(師長等):
改訂履歴:(版数・改訂日・改訂内容・改訂者を記載)
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■ 目的
気道内分泌物を除去し、気道の開通性を保持する。
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■ 実施基準(以下のいずれかに該当する場合に実施)
・SpO2が90%を下回った場合
・呼吸副雑音(ゴロゴロ音・ガーガー音)が聴取された場合
・患者が自己喀痰できず、分泌物による呼吸困難が生じている場合
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■ 必要物品
□ 吸引器(吸引圧が設定できるもの)
□ 吸引カテーテル(単回使用)
□ 滅菌蒸留水(または生理食塩水)
□ 清潔手袋・マスク・ゴーグル(飛散防止)
□ 手指消毒剤
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■ 手順
【準備】
1. 手指消毒を行い、手袋・マスク・ゴーグルを装着する。
2. 吸引器の電源を入れ、吸引圧を20 kPa以下に設定する。
3. 吸引カテーテルを清潔に取り出し、先端を滅菌蒸留水で湿らせる。
【実施】
4. 患者に吸引の目的を説明し、同意を得る。
5. 体位を整える(できれば半坐位またはファウラー位)。
6. カテーテルを折り曲げ(吸引圧を閉じた状態で)挿入する。
・口腔内:口角から挿入し、咽頭手前まで(奥壁に当てない)
・鼻腔内:鼻孔より静かに挿入し、咽頭手前まで
7. カテーテルの折り曲げを解放し(吸引開始)、ゆっくり回転させながら引き抜く。
→ 1回の吸引時間は10秒以内を目安とし、最長15秒を超えない。
8. 吸引終了後、カテーテルを滅菌蒸留水で洗浄する。
9. 患者のSpO2・呼吸音・表情を確認する。
→ SpO2が回復しない場合、または苦痛が強い場合は中止し医師に報告する。
【後片付け】
10. 吸引カテーテルを廃棄する(単回使用のため再使用しない)。
11. 手袋を外し、手指消毒を行う。
【記録】
12. 吸引実施を記録する。
記録内容:実施日時・吸引部位・分泌物の性状・量・色・実施前後のSpO2・特記事項
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■ 確認ポイント
□ 吸引圧が20 kPa以下に設定されている
□ 1回の吸引時間が10秒以内(最長15秒以内)である
□ 吸引前後のSpO2を確認した
□ 吸引後に呼吸音の改善を確認した
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■ 注意事項・禁忌
・気管内(深部)の吸引は看護師のみ実施可(咽頭手前までは介護職員も可)
・頭蓋底骨折が疑われる場合は鼻腔吸引禁忌
・無理な挿入は粘膜損傷を招くため、抵抗を感じたら中止する
テンプレート 3:静脈採血手順書
【看護手順書】静脈採血(末梢静脈)
作成日: 年 月 日 最終更新日: 年 月 日
作成者: 承認者(師長等):
改訂履歴:(版数・改訂日・改訂内容・改訂者を記載)
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■ 目的
検査オーダーに基づき、末梢静脈から必要量の血液検体を安全に採取する。
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■ 必要物品
□ 検査依頼書(または電子カルテの検査オーダー)
□ 採血管(必要本数・種類)
□ 採血針またはホルダー付き真空採血針(推奨)
□ 駆血帯
□ 消毒綿(アルコール70%)
□ 清潔手袋
□ 絆創膏・圧迫止血帯
□ 廃棄容器(針捨て専用)
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■ 採血管の採取順序
【真空管採血(ホルダー方式)の場合】
① 生化学(赤・黄キャップ)→ ② 凝固(青キャップ)→ ③ 血算(紫キャップ)→ ④ 血糖(灰キャップ)
【シリンジ採血の場合】
① 凝固 → ② 血算 → ③ 血糖 → ④ 生化学
(注:シリンジ採血では凝固検体から分注する)
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■ 手順
【準備】
1. 検査オーダーを確認し、必要な採血管を揃える。
2. 患者にフルネームで名乗ってもらい、検査依頼書と照合する。
3. 手指消毒を行い、清潔手袋を装着する。
【穿刺部位の選択】
4. 肘窩部(正中皮静脈・尺側皮静脈・橈側皮静脈)を第一選択とする。
※以下の部位は禁忌:
・麻痺側(絶対禁忌)
・透析シャント側(絶対禁忌)
・乳房切除側(腋窩リンパ節郭清後:原則禁忌、必要時は医師に確認)
・点滴ライン留置側(同側前腕より末梢は避ける)
【実施】
5. 駆血帯を穿刺予定部位の7〜10 cm中枢側に装着する。
6. 消毒綿で穿刺部位を中心から外側に向け消毒し、乾燥させる(15秒以上)。
7. 採血針を皮膚に対して15〜30度で穿刺する。
8. 採血管を上記の順序で挿入・採取する。
9. 最後の採血管を外す前に駆血帯を外す。
10. 採血管を抜去し、穿刺部位を清潔綿で圧迫する(5分間)。
11. 採血針を採血管から抜き取り、直ちに廃棄容器へ捨てる(リキャップ禁止)。
【後片付けと記録】
12. 採血管を転倒混和する(凝固・血算・血糖は5〜8回)。
13. 検体ラベルを確認し、搬送容器に入れる。
14. 手袋を外し、手指消毒を行う。
15. 採血実施を記録する。
記録内容:実施日時・採取部位・採取量・患者の状態・特記事項
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■ 確認ポイント
□ 患者氏名が検査依頼書と一致している
□ 禁忌部位に穿刺していない
□ 採取順序が正しい
□ 採取後の圧迫止血が確認できた(5分間)
□ 採血針を安全にリキャップなしで廃棄した
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■ 注意事項・禁忌
・迷走神経反射(気分不良・失神)のリスクがある場合は臥位で実施する
・2回穿刺しても採血できない場合は他のスタッフに交代を依頼する
・溶血防止のため、シリンジ採血の場合は勢いよく注入しない
ミニ事例:書式統一で教育効率が改善したケース
ある急性期病棟では、与薬・吸引・採血の手順書が部署ごとに独自の書式で作成されており、異動してきたスタッフが「部署によってやり方が違う」と混乱するケースが続いていました。
師長主導で3つの手順書を統一フォーマットに書き直し、6Rの確認タイミングや吸引圧・吸引時間の基準値を明記しました。その結果、新入職者の実地指導の時間が短縮され、「どこを読めば確認できるかがわかりやすくなった」という声がスタッフから上がりました。
手順書の内容を変えたのではなく、「誰が書いても同じ構造になる」書式に統一したことで、教育担当者の負担も軽減された好例です。
看護手順書 完成度チェックリスト(V-5:10項目)
作成した手順書を公開・運用する前に、以下の項目を確認してください。
内容の確認(5項目)
- ☐ 目的が1〜2文で明確に記載されている
- ☐ 手順が番号付きで順を追って記載されている
- ☐ 必要物品が具体的な品名・規格で記載されている
- ☐ 確認ポイント(チェックボックス形式)が設けられている
- ☐ 注意事項・禁忌が明記されている
管理・周知の確認(5項目)
- ☐ 作成日・最終更新日が記載されている
- ☐ 作成者・承認者の記名がある
- ☐ 改訂履歴欄が設けられている
- ☐ 担当外のスタッフが読んでも実施できる内容になっている
- ☐ 写真・図・表が適切に挿入されている(または挿入予定がある)
手順書の最終確認として、「その業務を経験したことのない新人スタッフが、手順書だけを読んで安全に実施できるか」を基準にレビューすることを推奨します。経験者には当然に見える手順が、新人には省略されて見えることがあります。
まとめ:看護手順書の作り方は「構造を決める」ことから始める
手順書整備が進まない最大の理由は、書き方のルールが決まっていないことです。
「目的・手順・確認ポイント」の3要素で構成する方法と、5ステップの作成プロセスを導入することで、スタッフが個別に書いても品質のばらつきが小さくなります。
まずはインシデントが多い業務(与薬など)1つを選び、この記事のテンプレートを使って作成してみてください。1本作り上げることで、他の手順書作成の流れもつかめます。
この記事のテンプレートはそのまま転記してご利用いただけます。施設の特性に合わせたカスタマイズ(施設名・部署名の入力、写真の挿入、電子カルテとの連携対応など)をご希望の場合は、お気軽にご相談ください。
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参考文献
- 医療法施行規則第1条の11第2項第2号ロ(医薬品の安全使用のための手順書作成義務)
- 厚生労働省「医薬品の安全使用のための業務に関する手順書作成マニュアル」(2007年)
- 厚生労働省「技術指導の例:6Rに基づく与薬確認」
- 公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」報告書(処方・与薬関連事例5,928件)
- 文部科学省「特別支援学校等における医療的ケアの実施に関する検討会議 喀痰吸引等の手技」(吸引圧・時間基準)
- 日本臨床検査標準協議会(JCCLS)「標準採血法ガイドライン GP4-A3」(採血手順・採取順序)
- 社会福祉士及び介護福祉士法施行規則(介護職員による喀痰吸引の範囲:2012年4月施行)