GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準は、世界中で乱立していた低栄養の診断基準を統一するために国際4大栄養学会が2019年に策定した国際標準です。「スクリーニング」と「診断的評価(診断+重症度判定)」の2段階で体系的な低栄養評価が可能となり、NST加算(A233-2)の算定根拠としても活用されています。本記事では、管理栄養士・看護師・医師・NST関連職種を対象に、現場での実践手順と運用上のポイントを詳しく解説します。

GLIM基準とは

GLIM基準は、ASPEN(米国静脈経腸栄養学会)・ESPEN(欧州臨床栄養代謝学会)・FELANPE(ラテンアメリカ臨床栄養代謝学会)・PENSA(アジア太平洋静脈経腸栄養学会)の4学会が合同で策定し、2019年に学術誌Clinical Nutritionに発表しました。日本では日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)が普及・教育を推進しています。

従来はSGA(主観的包括的栄養評価)やMNA(Mini Nutritional Assessment)など施設・国ごとに異なる評価法が使われており、診断の再現性や国際比較に課題がありました。GLIM基準はこれらの課題を解消し、客観的な指標に基づく標準化された診断フローを提供しています。

従来の評価法とGLIM基準の比較

評価法概要特徴・課題
SGA(主観的包括的栄養評価) 病歴・身体所見から評価。主観的判断に基づく 簡便だが評価者間のばらつきが大きい
MNA(Mini Nutritional Assessment) 高齢者向け18点満点の多項目評価 高齢者に特化しており、身体機能も含む
NRS2002 疾患重症度スコアを加味した評価 ICU・重症患者に有用。精度が高い
GLIM基準 国際統一・客観的指標による2段階評価 再現性が高く根拠が明確。NST加算と連動

評価の2段階構成

GLIM基準の評価は以下の2段階で構成されます。

  1. スクリーニング:既存のツール(MUST・MNA-SF・NRS2002・MST等)を用いて低栄養リスク患者を抽出する
  2. 診断的評価:スクリーニングでリスクありと判定された患者に対し、(2-a)表現型基準と病因基準の組み合わせで確定診断を行い、(2-b)重症度(中等度・重度)を判定する

STEP 1 栄養スクリーニング

GLIM基準では、いきなり診断基準を適用するのではなく、まず全患者にスクリーニングを実施し、リスクありと判定された患者のみを診断ステップに進めることが求められています。スクリーニングを省略してGLIM診断に進むことは、GLIM基準の本来の運用から外れますのでご注意ください。

主要スクリーニングツールの比較

ツール名対象特徴所要時間
MUST 成人全般(外来・入院・地域) BMI・体重減少・急性疾患の3項目。計算が必要 3〜5分
MST 入院患者(急性期) 2項目のみ。簡便で看護師でも施行可能 1〜2分
MNA-SF 65歳以上の高齢者 6項目。外来・施設でも使用可能 5〜10分
NRS2002 入院患者(重症例に多用) 疾患重症度スコアを含む。精度が高い 5〜10分

ツールの使い分け目安

状況・対象推奨ツール
高齢者(65歳以上)MNA-SF
急性期入院(多忙な現場)MST(簡便性が高い)
ICU・重症患者NRS2002
外来・地域・在宅MUST

💡 ポイント:施設やユニットの特性に合わせてスクリーニングツールを1種類に統一しておくと、運用が安定し記録の比較も容易になります。NSTや栄養委員会で事前に決定しておくことを推奨します。

STEP 2 低栄養の診断

低栄養の確定診断は、表現型基準(Phenotypic Criteria)から1つ以上、かつ病因基準(Etiologic Criteria)から1つ以上を満たした場合に行います。どちらか一方だけでは低栄養とは診断されません。

表現型基準(Phenotypic Criteria)—3項目のうち1つ以上

項目基準値・条件
1. 非意図的体重減少 6ヶ月以内:通常時体重から5%超の減少
6ヶ月超:通常時体重から10%超の減少
2. 低BMI 70歳未満:BMI < 18.5 kg/m²
70歳以上:BMI < 20 kg/m²
3. 筋肉量減少 四肢骨格筋量(SMI、BIA法):男性 < 7.0 kg/m² / 女性 < 5.7 kg/m²(AWGS2019基準)
握力:男性 < 28 kg / 女性 < 18 kg
下腿周囲長(CC):男性 < 30 cm / 女性 < 29 cm

注意:70歳以上のBMI基準について
70歳以上の低BMI基準は「20 kg/m²未満」と、70歳未満(18.5 kg/m²未満)より高く設定されています。加齢による体組成変化(筋肉量の低下・脂肪分布の変化)を考慮したものです。高齢者では一見「普通体型」に見えてもBMI 18.5〜20の範囲で低栄養に該当する場合があるため、見落としに注意が必要です。

病因基準(Etiologic Criteria)—2項目のうち1つ以上

項目具体的な条件
1. 食事摂取量の減少または消化吸収障害 エネルギー必要量の50%未満:1週間以上継続
エネルギー必要量の50〜75%未満:2週間以上継続
慢性的な消化吸収障害(短腸症候群・IBD活動期・慢性膵炎等)
2. 疾病負荷・炎症 急性疾患・重症:重篤な感染症、外傷、手術後(CRP上昇が参考指標)
慢性疾患:悪性腫瘍、慢性心不全(NYHA III〜IV)、CKD(G4〜G5)、COPD、肝硬変等

📌 補足:病因基準の「疾病負荷・炎症」はCRPなどの検査値が必須ではありません。悪性腫瘍・感染症・術後・慢性疾患(CKD・慢性心不全・COPD等)の診断名がある場合は、臨床的に「疾病負荷あり」と判断して差し支えありません。

STEP 3 重症度の判定

低栄養と診断された場合、次に重症度を中等度(Stage 1)または重度(Stage 2)に分類します。重症度は栄養介入の優先度・強度を決める上で重要な指標となります。表現型基準の3項目のうち最も重症度が高い項目に合わせて総合判定します。

重症度体重減少低BMI(アジア版)筋肉量低下
中等度(Stage 1) 6ヶ月以内に5〜10%
6ヶ月超に10〜20%
70歳未満:18.5〜20未満
70歳以上:20〜22未満
軽度〜中等度の低下
重度(Stage 2) 6ヶ月以内に10%超
6ヶ月超に20%超
70歳未満:17.8未満
70歳以上:20未満
重度の低下(CC:男性<27cm / 女性<26cm)

💡 ポイント:重症度の高い項目が1つでもStage 2の基準を満たせば「重度低栄養」と判定します。Stage 2の患者は優先的にNSTカンファレンスでの介入方針決定を行いましょう。

現場でよくある疑問(Q&A)

Q1. 通常時体重(UBW)が不明な場合はどうすればよいですか?

患者・家族からの聴取、既存の診療録・看護記録、健診データ、お薬手帳(体重記録がある場合)などから推定します。完全に不明な場合は「通常時体重不明のため体重減少基準は適用不可」と記録し、他の表現型基準(低BMI・筋肉量減少)で評価を進めることが可能です。

Q2. 浮腫・肥満がある患者の下腿周囲径はどう扱いますか?

下腿周囲長(CC)の基準値は患者の状態によって判断します。浮腫・肥満がある場合は実測値が過大評価となるため注意が必要です。

重症度男性女性
低栄養(中等度)の目安< 30 cm< 29 cm
重度低栄養の目安< 27 cm< 26 cm

Q3. 疾病負荷(炎症)はどのように判断しますか?

CRPなどの炎症マーカーは参考指標として活用できますが、必須ではありません。悪性腫瘍・感染症・術後・慢性疾患(CKD・慢性心不全・COPD等)の病名がある場合は、臨床的判断で「疾病負荷あり」と判定して構いません。判定根拠を診療録に記載しておくと、NST加算の算定記録としても有用です。

Q4. GLIM評価の再評価タイミングはいつですか?

病棟・施設区分再評価の目安
急性期・ICU毎週
回復期・療養病床月1回(最低)、状態変化時は随時
介護施設入所時・3ヶ月ごと・状態変化時

多職種連携と運用のポイント

GLIM基準を実践で機能させるためには、職種ごとの役割を明確にした多職種連携が不可欠です。以下に職種別の主な役割をまとめます。

職種主な役割
管理栄養士スクリーニング結果の確認、GLIM診断の実施・記録、栄養計画の立案
医師疾病負荷・炎症の判断、低栄養診断の最終確認、栄養療法の指示
看護師スクリーニング実施(MST等)、体重・食事摂取量の日常観察
言語聴覚士嚥下機能評価との連動、摂食支援への情報提供
理学療法士筋肉量・筋力評価(握力・下腿周囲径)、サルコペニア評価との連動
薬剤師食欲低下・吸収障害に関与する薬剤の確認、TPN・PPN管理

低栄養診断後の介入(「攻めの栄養療法」)

GLIM基準で低栄養と診断された場合は、速やかに多職種で以下の点を共有し介入を開始します。

  1. カロリー目標の設定:重症度に応じて25〜35 kcal/kg/日を目安に設定
  2. タンパク質の確保:1.2〜2.0 g/kg/日(重症例・術後はより高め)
  3. 経口補助食品(ONS)の活用:食事だけで必要量を補えない場合に積極的に使用
  4. 経腸・経静脈栄養の検討:重症例、嚥下障害のある患者に対して
  5. リハビリテーション栄養の実践:理学療法士・言語聴覚士と連携して筋肉量の回復を図る
  6. 再評価スケジュールの設定:介入効果を定期的に確認する

NST加算(A233-2)200点との連動

NST加算(A233-2)は、低栄養リスクが高い入院患者に対してNSTが栄養管理を実施した場合に週1回200点を算定できます。GLIM基準による低栄養診断はリスク評価・診断の根拠として診療録に残すことが重要です。

NST加算の必要人員配置(令和6年度)
NST加算の算定には、以下の多職種チームの配置が施設基準として求められます。
・医師(専任)1名以上
・看護師(専任)1名以上
・薬剤師(専任)1名以上
・管理栄養士(専従・常勤)1名以上
うち医師・看護師・薬剤師・管理栄養士のうち1名以上は専従であること。

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GLIM基準に基づく低栄養評価シートをExcel形式で提供しています。スクリーニングから重症度判定まで一枚で管理できます。

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参考文献

  • Cederholm T, et al. "GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – A consensus report from the global clinical nutrition community." Clinical Nutrition. 2019;38(1):1-9. doi:10.1016/j.clnu.2018.08.002
  • Chen LK, et al. "Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment." J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.(AWGS2019基準)
  • 日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)テキストブック,2021年
  • 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示」(厚生労働省告示第57号,令和6年3月5日)
  • 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(保医発0305第4号,令和6年3月5日)